第65話 災難一過

 その後は小枝母に連れられ、無事、帰りの飛行機へと搭乗した。


「安藤君……ひよりちゃんとはどういう関係なのですか?」


「ぐっ! ごほっ、ごほっ!」


 機内サービスで飲んでいたお茶を無理に飲み込み、俺はむせ返る。


「ど、ど、どういう関係と言われましても……学校で席が隣という、ただそれだけのことでして」


「はい?? ただそれだけな訳がないでしょう。馬鹿なんですか?」


「そう言われても……」


 窓際の席で寝静まった小枝を見計らってか……小枝母がどえらい質問を突きつけてくる。ちなみに席は三列の並びで、小枝は窓側、小枝母は真ん中、俺は通路側の席。

 俺は必死に事実を述べていくが、なかなかに圧をかけてくる小枝母にはうまく伝わらない様子。頼みの綱となる小枝はスヤスヤと夢の中。もはやサンドバッグ状態で俺は地獄の中。


「たかが隣の席というだけで、ここまで世話を焼く人がいますか??」


「でも、それ以上に接点はなくて……あ、そういえば同じ生徒会だったりもします」


 小枝母はジト目でため息をつく。


「はぁ、本当はあなたの面倒なんか見たくないんです。でも、そうしなきゃひよりちゃん家出するなんて言うもんですから……」


「え!? 小枝……じゃなくて、ひよりさんがそう言ったんですか?」


「だから、そう言っているでしょう。馬鹿なんですか?」


「そ、そうだったんですか……」


 俺はしばし考え込む。


「クラスの子はみないい子だと侮っていましたが、あなたみたいな悪い虫がつくとは……不運とは正にこのことです」


「えっと、その、どうしてひよりさんが俺を気にかけてくれるのか……正直、俺自身よくわかりません。ただ」


「ただ?」


「何度も救ってもらいました。彼女がいなければ、俺はずっと嫌な奴で、生きていく場所をなくしていたかもしれません。だから、彼女が俺に「次」を与えてくれたのなら、カッコ悪くても、恥でも何でもすがらなきゃいけないと思うんです。俺の「駄」が、また新しい芽を出すまで、見届けてもらいたい。ややこしいですが、そんな関係……ってとこですかね」


「ふむ、わけわかめですね」


「で、ですよねぇ……」


「ひよりちゃんも妙な人を救ってくれたものです」


 小枝母は虚空を恨めしく見つめ、どこかあきらめたような口調となる。


「まぁ、あなたがひよりちゃんに何かをした訳でもないですし、この際、細かいところには目を瞑ることとしましょう。一度決めた以上、責任もって我が家で面倒を見ます」


「助かります。じゃあ、これから遠慮なくお世話になりま……」


「それに、監視下に置いた方がかえって都合の良いこともありますし、ね」


 クククと笑う小枝母に背筋が凍る。待ち受ける生活は、どうやらあまり安心のできる暮らしとは言えなさそうだ。

 そんな不安を抱えたまま、飛行機は俺たちの居場所へと戻っていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小枝は小春びより 若狭兎 @usawaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ