第63話 オルカ・ヘクトパスカル
小枝母は朝イチの飛行機で向かうとのことだったが……それでもだいぶ時間が空いてしまう本日のスケジュール。
「せっかくなので、観光でもしませんか?」
支払いを終え、ネットカフェを出ると小枝が提案してきた。こいつのおかげで前向きになれたことだし、暗いだけの旅にならないよう、少しくらいは楽しい思い出を作ってやりたい。そんな気持ちから付き合ってやることにした。
「で、行きたい場所はあるのか?」
「ここなんてどうでしょう?」
小枝がガイドブックで示した場所は、某有名な水族館であった。まだ時間的に余裕があるし、今から向かえば問題ないだろう。小枝に小枝母へ連絡を入れさせ、そこを集合場所へと指定させてもらう。そして、俺たちは水族館へと向かったのであった。
♢♢♢
電車で最寄り駅まで行き、そこからは無料バスを使い目的地へ向かう。無事に水族館へと到着し、さっそく俺たちは館内を回った。
「すごいです! すごいです! 見てください、安藤君!」
相変わらずはしゃぎまくる小枝。本当に病気だったのか……というくらいのパワフルさ。だがそれも、致し方ないと言えば致し方ない。
都心からアクセスが可能という水族館なだけあって、豊富……いや、それ以上のレベルで生き物たちがたくさんいるのだ。ペンギン、サメ、甲殻類、各種海水・淡水魚、アザラシ、シロイルカのベルーガなど、見ていてなかなかに退屈しない。
「お魚さん、いっぱいいますね~」
「そうだな。だが、小枝よ……まだまだこんなもんで驚くなよ」
「はい?」
俺は自身あり気にとある場所へと案内する。そう、この水族館はシャチのショーが有名なのだ。昔、一度だけ連れてきてもらったことがあるが……あのパフォーマンスは圧巻。目玉たるショーをみすみす見逃す手はない。
「うわぁぁぁ!」
「ひゃぁぁぁ!」
というわけで、始まったシャチのパフォーマンス。そのジャンプはものすごく、まさにウルトラC! ジャンプの高さに伴い、中央の前列席に座っていた俺たちに飛びかかる水しぶきもすごかった。事前にカッパを買って水対策はしたものの、それでもその勢いに俺たちは声を上げた。
「シャチさん、可愛いですね」
「可愛くは見えてもだな、シャチの学名は『
「うへぇへぇ~! けっこう怖いんですね」
「そのうえ海の食物連鎖では、あの白熊よりも上に君臨しているまさに王者であってだな……」
「あ、きます」
「ん?」
俺が前を向いた途端、シャチの尾びれが見えた。すかさず必殺のウォータースプラッシュ! 怒涛の水しぶきが襲い掛かってきた。
「どわぁぁぁ!!」
「ひゃぁぁぁ!!」
ショーを堪能し終える頃、観覧席は台風が来たレベルで水浸しになっていた。
「あはは。安藤君、ずぶ濡れですねぇ」
「そういうお前こそな」
この後、台風のような人物が、刻一刻と迫っていることを気にも留めず、笑い合う俺と小枝であった。
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