第60話 保護者問題

「うっ」


 コインランドリールームにて、俺の服と共に小枝の制服などを洗濯機に入れてるとと、奴の下着を手に取ってしまう。なんとも女子らしい白のブラにパンツ……って、おい!!

 俺はぶんぶんと首を振り、慌てて全部放り込み、すかさず洗濯機を作動させた。


(いったい何を考えているというのだ、俺は)


 つい、頬を赤らめてしまう。妹の下着にすら何の感情も抱かなかったというのに……この体たらくはなんだ。まさか同級生の下着というだけでこうもドギマギするとは。


 俺は洗濯機の稼働タイムを見つめ、ボーっと考えていた。


 もしかすると、小枝は嫌だったのではなかろうか。洗濯するといった時、自分の分の衣服はどうするか聞くべきだった。それを強引によこせなどと……いささか悪手だったと反省する。あいつだって、年頃の女だ。何も思わないはずがないだろう。


「あ、安藤君いました~」


 風呂上がりで全体を火照らした小枝が、少し慌てた様子でコインランドリールームへとやってくる。


「小枝か……その、悪かった」


 少しばつが悪そうに眼をそらす俺に、小枝が首を傾げる。


「ふぇ? どうかなさいました?」


「いや、その……お前の下着見ちまってさ。男に洗濯されるなんて、嫌だったよな」


「そんなことはどうでもいいのです」


「いや、どうでもよくはないだろ!」


 ったく、少しは女らしく危機感を持てっての。


「安藤君を信じてますから。あ、それよりも一大事です。先ほど、私の母から連絡があり、安藤君とお話がしたいと」


「ええっ!? お前のお袋さんが?」


 俺は青ざめた。

 そうか、その問題もあったか。自分の娘がどこぞやの男と県外に飛び出したのならば、心配しない親というのがかえって不自然である。いや、それどころかきっと気が気ではないだろう。そんな状況を見落としていたなんて……俺としたことが。


♢♢♢


 一旦状況を整理すると、帰ってこない娘の身を案じ、小枝の母から電話があったらしい。素直な性格の小枝が状況を洗いざらい説明したところ、とりあえず今日の一件は後でお叱りを受けることで落ち着いた……のだが、一度俺とも話をしておきたいと言ったそうな。

 俺は恐る恐る、小枝の携帯から折り返しの電話をかける。


『ガチャ』


「はい、小枝ひよりの母です」


「あ、あの……はじめまして。私、小枝ひよりさんと同じクラスの安藤と申しまして」


「……あなたが安藤君ですか」


 妙に落ち着いている口調が異様な怖さを感じさせる。


「あの、この度は娘さんを勝手に連れ出してしまい……本当になんとお詫びすればいいのか」


「そう委縮しないでください。あの子が無理を言ったのでしょう? ひよりちゃんからおおむねの事情は伺いました」


「そう言っていただくと助かります」


「明日、私がそちらへ迎えに行くので、それからのことは心配しないでください」


「え? ですが……」


「あなたもさぞ大変だったでしょう。まだ、あなたたちは子供の身なんです。あとのことは大人に任せなさい」


 今日一日、冷たい扱いを受け続けた俺に対する優しい言葉。少しウルッときてしまう。こんな優しい人もいるのだなぁ。


「本当に……すいませんでした」


 小枝と違い、小枝母が話の通じる人で良かった。とりあえず誤解を招かずに済み、ほっと胸をなでおろすのだが。


「ところで……」


 小枝母がなにやらまだある様子。そして、そこからが本当に大変なのであった。

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