第58話 ストローハット

「ううう、すいませんでした~」


 浜に上がると、小枝が土下座の勢いで謝ってくる。


「別にいい。いつものことだ。それより……」


 ひれ伏す小枝を一瞥いちべつした後、俺は泣いてる女の子のもとへ向かい、同じ目線へとかがむ。


「ごめんな、麦わら帽子流されちまった」


「いい。あの帽子、海さんにあげる」


「そっか、きっと喜ぶだろうさ」


 ベソをかいていた女の子が強がるように言った。なんだか、そんな子供の無邪気さに救われた気がする。


「あ、あの、本当にすいませんでした。私が早とちりしたばっかりに」


 すぐさま小枝もおばあさんと女の子に頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそごめんなさいねぇ。びしょ濡れになっちゃって、寒いでしょう」


 おばあさんが小枝の顔をハンカチで拭いてやっている。そして、こちらを向き、俺へと微笑んだ。


「素敵な彼女さんね~」


「……ただ、席が隣ってだけですよ」


「あらあら、もっと仲良しさんだと思ってたわ」


 小枝は顔を真っ赤にしたまま黙り込んでいる。俺とカップルに見られたのが嫌だったのか、海に飛び込む大胆な行為を今さら恥じたのか。まぁ、どちらでもかまわんが。

 こうして、おばあさんと女の子に別れを告げたのだが、少し先を行った女の子がこちらへ引き返してくる。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「どした?」


「私ね、お兄ちゃんみたいな人と隣の席になる」


「え? あ、ああ……」


 その子は小枝にニカッと笑みを投げかけると、再びおばあさんのもとへとまた駆け出した。


「どういう意味なんでしょう?」


「さぁ」


♢♢♢


 その後……。


 「くしゅん」


 びしょ濡れになったみすぼらしい小枝。風邪でもひかれたらたまらないので、何かしら解決案がないものかと思案する。


「お前のその濡れネズミ、どうにかならんものか」


「で、あればですね~」


 小枝はヒョイと取り出したスマホであれこれ検索し、比較的、近場ちかばにあった東松屋というところへ誘導する。本来なら女児の服専門店らしいのだが、成人女性でも着れそうな服も多く、そこで間に合わせの服を購入する。続いて100均にも寄り、女性下着や履物等も購入できた。


「大変お待たせいたしました~」


 100均の女性トイレにて着替えてきた小枝。制服姿しか見たことがなかった為、普通服の姿が少し新鮮である。


「なんていうか、やっぱお前ってたくましいのな」


「え? どうしてです?」


「いや、こんな安価で服一式が揃えられると思わなかったから」


 費用はもちろん俺持ちなので、安く済むに越したことはない。しかし、おそらく俺が選んでたら倍以上の費用はかかっていたであろう。こういう節約術には、素直に感心する。


「世の中が便利なだけですよ~」


 少し照れたような素振りをし、小枝が歩き出す。そんなこいつの背中に、母親のような安心感を覚えたのは……きっと気のせいだろう。

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