第55話 怪しげな雲行き
空港を出て見上げた都会の空。
田舎の地域より北上したため、まだ梅雨には入っていない様子だが、線状降水帯の影響で怪しげな天気である。
「安藤君、この水族館行ってみませんか?」
「……」
「そうだ、テーマパーク行きましょう。テーマパーク」
「ええい、少し黙れ」
どこかセンチメンタルな俺を、横からワイワイと
「まずは俺の両親に会わなきゃいけないんだろうが。目的を間違えるな」
「そうでした、てへっ」
くそ、さんざん念を押してたというのに、すっかりリセットしてやがる。困った奴だ。
♢♢♢
「うへぇ~、高いビルがいっぱいですねぇ」
物珍しそうに電車の窓に手をつき、外を眺める小枝。ほかの乗客に笑われてるのに気づかんのか、こいつは。田舎者丸出しで、こっちが恥ずかしくなる。
それから、いくつか電車を乗り継ぎ、実家のある町へとたどり着いた。ほんの2~3カ月の間離れていただけだが、なんだか、ひどく懐かしく感じる。
「へぇ、このあたりに安藤君は住まわれていたんですか~」
「まぁな。俺の家はこの先の住宅街にある」
「安藤君のお家なんて、なんだか新鮮な気持ちです」
小枝を連れ、閑静な住宅街をどんどん歩いていく。
「そんな新鮮なもんじゃ……」
俺はふと足を止めた。
「ごふっ。ど、どうかされました?」
突然、歩みを止めた俺の背中に、小枝がドンッとぶつかる。
だが、そんなことよりも目の前の光景に俺は愕然とした。
「売り家……だと」
見まごうことはない、昔からずっと住んでいた家。その門には、大きく『売り家』と書かれた看板が掲示されていた。
「え、え? ここって、もしかして……」
「ああ。俺の家……だった場所らしい」
目の前の光景を信じられずに、立ち尽くしていると……。
「あら、あらあら。作仁ちゃんじゃない」
ほうきを片手に突然声をかけてきたおばさん。そうだ、この人は隣に住んでいるおばさんだ。
「心配してたのよ~。安藤さんのお宅、急に引っ越しちゃうから~」
「あ、あの……親父たちはどこに引っ越したか知りませんか?」
「え? 一緒に引っ越したんじゃないの?」
そこから簡単にだが、俺は事情を話す。
「ごめんね、おばさんにはわからないわ。作仁ちゃんもてっきり一緒だと思ってたから」
「そうですか……」
どうやら、ここにもう手掛かりはないらしい。
おばさんに別れを告げ、とりあえず、家の看板に書かれている不動産会社へと向かうことにしたのであった。
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