第54話 都会の空へ

 航空券の予約サイトを見てみるが、やはり当日ということもあり、かなり値が張っている。


(とりあえず空港でキャンセル待ちがあるか聞いてみよう)


 スマホの画面を消し、少し物思いへとふける。小枝はみんなにどう伝えたのだろうか……まぁ、俺一人いなくなったところで、学校生活はなんも変わらんだろうが。


「あれ、航空券もう取れたんですか?」


「空港で一旦キャンセル待ちを聞いてから決めようかと……って、おい、小枝」


 うしろのシートから顔をのぞかせる小枝に俺は冷静に反応した。


「帰れって、俺、言ったよな?」


「どうでしょう? 学校を欠席するとは伺いましたが」


「はぁ~、もう……ついてくんなよ」


「そうおっしゃらず。旅は道連れ、世は情けというじゃありませんか」


 このバスは快速バスであり、空港に着くまではどこにも降りられない。明らかに小枝の計画的犯行である。仮に空港でまた帰れと言ったところで、素直に聞き入れるようなタマじゃないだろう。


「ちなみにお前、いくら持ってる?」


「えっと、お昼代の300円と、飲み物代の100円と……」


「もういい」


 悲しきかな……こいつの旅費代までこっち持ちである。


「時間がないから同行を許すが、いつもみたいなお気楽気分じゃ困るからな」


「はい、もちろんです!」


 小枝は両拳を握り、気合を入れる。相変わらず不安しかないのだがな。


♢♢♢


「すごいです、すごいです! 雲より高いですよ、安藤君!」


「ええい、騒ぐな。言っておくがな……」


「お気楽気分じゃダメ。もう5回目ですよ~」


 ったく、なら少しは落ち着けよな。

 余計なお荷物が増えはしたが、運よく、最速のキャンセル待ちの便に乗れた俺たち。空港ではしゃぐ小枝に念を押し、すぐさま田舎の県を飛び出して俺の住んでいた都会へと向かう。

 ……のだが、そんな俺の言いつけもどこへやら。小枝は窓際の席で、外を眺めつつ子供の用にはしゃぐ。まぁ、いつものことといえば、いつもことなのだが。


「私、お友達とジェット機に乗るのなんて初めてです~」


「あん? 中学の修学旅行とかあっただろう? 大げさな奴だ」


「あ~……あの時は、少し病気がちでして」


「え? そ、そうなのか?」


「はい。ですから、成り行きとはいえ、安藤君とお出かけができて楽しいです」


 明るく振舞ってはいるが、どこか笑顔に陰りがある小枝。

 元気印を具現化したようなこいつが……病気だった? ずっと田舎で野生児のようにたくましく生きてきたものだと思っていたのだが。意外である。


「あ、でも今はもう治りましたよ。ピンピンしてます」


「そう。ならいいんだが……気分悪くなったら無理なく言えよ。都会ってのは、お前が思っている以上に過酷なんだからな」


「かしこまりです!」


 敬礼のポーズをする小枝と、しばらくの間フライトは続いたのだった。

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