第53話 不安な旅立ち
雨が降り続ける中、傘を差し、俺は一人ポツンとバスの停留場に佇む。時刻表のバスはまだ来ていない。午前で路線は多いはずなのだが……どのバスも一向に来る気配がないのだ。
学校に行くという本日の目的を放棄したためか……ひどく町の流れがスローに思える。それぞれの場所に向かう人々を見送る中、俺の考えは
このまま親のもとへ行くべきなのか。もしかしたら、少し間が空けば向こうからなにかしら連絡があるかもしれない。バスが遅れているというのも、その巡り合わせとも受け取れるし。
でも、このまま音沙汰がなければどうなる? やはり直接出向くより、いい解決方法はない。緊急用で預かっていた通帳の残高には、旅費を
「ええい、もう待てん」
少しでも考える間ができれば、安心したい気持ちと嫌な考えが交互に浮かんでは消え、浮かんでは消え、冷静さを保てなくなる。やはり親もとへ向かおうと決め、急ぎ足で田舎で唯一の古いバスターミナルへと向かうことにした。
「安藤く~ん、やほほ~! なので~す!」
停留所向こうの通りから、なにやら呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、今はそんなことに気を取られている余裕などなかった。
♢♢♢
「よし、空港への直行便がある」
バスターミナルでは、空港向けの快速バスがこれから出るようだ。
幸いにもスマホの通信はまだ生きている。俺はいち早く、航空券の予約サイトを検索していた。
「あの、どこかにお出かけですか?」
「どわっ! さ、小枝!?」
いったいどこから湧いて出たのか、またも小枝が隣からひょっこり顔をのぞかせてくる。
「おま、どうしてここに?」
「安藤君が通学路の反対方向に行くのが見えまして。どうしたのかな~と思いまして」
「今日は学校休む。ちょっと、身内にトラブルがあってな」
「え、そうなんですか! 一大事じゃないですか?」
「あ、いや……まだそうと決まったわけじゃないんだが、とりあえず確認に行こうと思ってな」
「私もお供……してはいけませんか?」
「は? 俺の住んでた都会に行くんだ。今から飛行機にも乗るぞ?」
「そ、そうですよね……すいません」
「あ……いや。けっこう、しんどい旅路になるかもしれないんだ。それに、お前にこれ以上借りを作りたくない」
「……そんな借りだなんて、滅相もないです」
そう話している内に、空港行きの快速バスがやってきた。俺はいち早くそれに乗り込む。
「とりあえず仁科先生やみんなには心配ないって伝えてくれ。じゃあな」
俺は小枝から逃げるようにバス内へ乗り込んだ。
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