涙降水確率90%

第52話 うそでしょ!?

 梅雨ばいう前線が停滞し、ジメジメとした季節がやってきた。

 小雨が少しパラついている、そんな朝のこと。


「おおう!」


 オンライン通信でも受講可能な塾主催の定期テスト。その結果に目を見張るものがあった。制服に着替えつつ、スマホで軽く見るつもりが、思わず画面を凝視してしまう。


「順位が上がっている……」


 久々のTOP10入りだ。田舎の学校に来てから毎日バタバタで、ろくに勉強もできない日々だったはずなのに……その結果はどうだ。


「ふふ、ははは」


 思わず笑いがこみ上げてくる。

 どういう理屈なのかは知らんが、この調子を維持してくれればいい。トップには依然としてあいつの名前があるが、いずれ引きずり下ろして……って、ちがうだろ。あいつには迷惑をかけたわけだし、一位を変わっていただくという表現が適切だろうか。


 傘を持ち、いい気分で家を出ようとすると、タイミングを見計らったかのようにスマホが鳴る。これは塾の番号からだ。


「はい、安藤です」


「朝早くから恐れ入ります。中央フリー塾事務局です。この度は、テストでの好成績おめでとうございます」


「ああ。それは、ご丁寧にどうも」


 遠回しに何の用だ? わざわざ定期テストの順位が上がったことを伝えるわけでもあるまいし。


「ところで、あの……月謝代が2か月ほど支払われていない件について、早急にご対応いただきたいのですが」


「なんだ月謝ですか……って、は!? 月謝が!?」


 支払い関係はすべて親に任せているため、寝耳に水的な事案であった。


「そ、そんなはずはないです。父に、父には連絡していただけましたか?」


「はい。ですが、お父様の携帯に繋がらなくなっておりまして」


「そんな馬鹿な。わかりました……確認して折り返します」


 俺は電話を切り、父の携帯に発信してみるのだが……。


『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


 無感情の音声がむなしく繰り返される。いったん通話を切ると、続けざまに着信が鳴った。


「あ、はい」


「安藤さんのお電話ですか? 今月分の家賃が滞納されておりまして」


「ええっ!?」


 それからも電気、ガス、水道と光熱費の請求の電話もどんどんかかってくる。


「ど、どうなってるんだ? いったい、これは」


 俺は慌てて母や妹の携帯にも電話をかけるが、どちらもやはりつながらない。このまま支払いがないのでは、塾を辞めなきゃいけなくなる。いや……それどころかアパートも追い出されるし、明日の生活すら成り立たなくなる。

 顔面蒼白となった。もはや、居ても立ってもいられず、俺は一度着替えた制服を着替え直し、急いで旅支度を整えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る