第51話 責任までが遠足

 さすがの高校生たちも疲れたのか、談笑もなく、帰りのバス内は静まり返っていた。小枝含め、クラスメイト達もみなお休み状態の様子。教諭たちも相変わらず睡眠の真っただ中……どんだけ寝るんだか。

 俺はボーっと外を眺めていた。


「安藤君」


「おわっ。なんだ、起きてたのか?」


 隣の席で寝ているはずの小枝が、いつの間にかこちらを見ていた。


「今日は楽しめましたか?」


「……」


「やはり楽しくなかったでしょうか……色々と大変でしたからね」


「楽しかったさ。悔しいけどな」


「本当でしょうか?」


「ああ。楽しくないなら楽しくないというさ」


「そうですか……なら良かったです」


 その言葉を聞いてホッとしたのか。小枝はまた座席にもたれかかるようにして、目を閉じた。

 小枝への返答に嘘偽うそいつわりはなかった。本当である。

 ドタバタやトラブルはあれど、みんながそれぞれに協力し合い、ただフィールドワーク……遠足を楽しく過ごすことができた。思えば、行事を楽しいという感情だけで終えたのなんて初めてかもな。


 どこか心がフワッと軽くなったような……そんな気がした俺であった。


♢♢♢


「アンドレ、38番から40番を3枚追加な」(高江洲)


「俺も頼む」(川岡)


「う~ん、記念だし……やっぱり俺ももらおうかな」(南田)


 遠足の写真を現像げんぞうし、焼き増しの注文を受けるため、各写真に番号をつけてみんなへと回覧する。ただし、女子には38番~40番は欠番と説明しており、この3枚は秘密裏にクラスメイト及びB組の男子にだけ回していたのだ。


 「ああ、その代わり手数料ははずんでくれよ」


 実はその写真はというと……そう、三科教諭と結原教諭の太ももがばっちり取れた写真なのだ。焼き増し注文は殺到しており、男子諸君はみな喜んで代金に色を付けてくれている。

 これを商売にしたらやめられないかもなぁ~などと、内心ほくそ笑む俺であった。


 そんなことがあって数日。


「おい、安藤。38番の写真が嫌に人気らしいな」


 俺はふと誰かに呼び止められる。


「焼き増し希望? それなら枚数とクラスと氏名を……」


 振り返った先には落ち着いた笑顔に、ただならぬ怒気を含んでいる三科が立っていた。


「あ、あれ~? 確かそれは欠番だったかと……」


「盗撮が趣味だとは見損なったぞ! テメェ!」


「いや、これには訳がありまして……俺はその、レク係としてのお務めを果たしたかったんです。ほら、写真係なのに、先生方のお色気シーンを撮らないと逆に失礼でしょう?」


「そうか、そうか。なら、そのお務めとやらについて、じっくり話そうじゃないか。職員室でな」


「でぇぇぇ!?」


「遠足は責任取るまでが遠足だからなぁ~。覚悟しとけよ」


 俺のささやかな反論もむなしく、三科に襟首をつかまれ、職員室へと引きずられていくのであった。

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