第50話 小枝高気圧、接近中

「えいっ! やぁっ! とうっ!」


「あたっ!!」(川岡)


「キャッ!!」(奥平)


「ウサッ!?」(うさ美)


 探索開始、直後。

 ターボエンジン全開の小枝は、一か所にまとめて隠れていた川岡、奥平、うさ美の後ろ頭を軽くはたく。


「川ちゃん、トモちゃん、うさちゃん見ーっけ!」


 そして、その勢いをゆるめることなく、缶のところへとリターンしていく。


「ありゃあ無理だ、追いつけない」(川岡)


「ぴよちゃんったら、容赦なさすぎ」(奥平)


「ピョン~……」(うさ美)


 俺が川岡たちのところへ着く頃には、小枝は引き返した後。その姿はもう見えなくなっていた。


「ほら、お前ら。捕まった奴らは缶の近くへ移動だ、ぜぇはぁ……」


「「は~い」」


「はい、だぴょん」


 俺は、そのまま三人を連行していく。


「安藤君~! 次はこっちですよ~」


 片足で缶を踏んでいた小枝が、こちらへ手を振って合図したかと思うと、すかさずまた駆けだす。


「ええっ、もう~?」


 休む間もなく、俺は小枝を追う羽目となる。

 この缶蹴りという遊び、なかなかに容赦がない。


♢♢♢


「壮ちゃん、み~っけ」


「あちゃ~」


「秀ちゃんはそっち」


「せいか~い」


 探索二週目。木に隠れ身していた高江洲と、木の上に潜んでいた南田もあえなく発見される。


「ぜ~はぁ、ぜ~はぁ……これで全員か?」


 追加で発見した二人を缶のある位置へ連行し終えると、小枝が少し考え込んでいる様子。


「どうかしたのか?」


「う~ん、おかしいですね。まだ近くに気配がするんですが……誰でしょう」


 小枝の頭の真ん中のアホ毛が、センサーのようにぴょこぴょこと動く。


「そういえば、会長さんは?」(奥平)


「最初らへんから見てないよな」(高江洲)


「何かあったのかな?」(川岡)


「どっかに隠れてるんだピョン」(うさ美)


 そうか、舘林さんがまだいたか。この際だから、さっさと見つかってほしいのだが。


「小枝、お前でも見つけられないのか?」(俺)


「少々お待ちを。小枝レーダーによりますと……あ、こっちです」(小枝)


 小枝レーダーらしきものが居場所を特定したらしい。俺たちは全員で舘林さんを捜索するために移動する。歩いていると、公園内のお花畑へと行きついた。

 あの人には似つかわしくない場所だが……。


「本当にこのあたりなのか?」


「……だと思うんですが、あっ!」


 全員が小枝が指さす方向を見る。花畑内には、顔に「へのへのもへ」の文字が書かれ、農作業用の笠をかぶっている、見慣れない案山子かかしが一つ。木の棒でできている割には妙に肉付きがよく、身なりももどこかUV対策バッチリのように見える。


「さっきまでこんなのあったか?」(高江洲)


「さぁ……」(南田)


「舘林さん、なにもそこまでしなくても」(俺)


「……」(案山子)


 俺の哀れみの言葉に、案山子がプルプルと震え、シクシクと泣き始める。


「ちはちゃん、もうみんな捕まえましたよ。ちはちゃんが最後です」


「……」


「舘林さん、もういいでしょう」


「うっさいわね、私は小枝ひよりにだけは捕まりたくなかったの」


 舘林さんはバレているにもかかわらず、未だに案山子の変装を解こうとしない。とんだ負けず嫌いである。


「みんな、記念に写真でも撮るか」


 俺の提案に、仕方なしとクラスメイト達は案山子会長をバックにポーズをとる。


「と、撮るなぁ~」


 パシャり。


「はい、もっと笑顔で~」


「うううぅ、撮らないでぇ~」


 問答無用でもう一枚パシャり。哀れな舘林さんこと案山子会長であった。

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