第49話 缶蹴り

 軽快なメロディと共に、携帯電話が振動した。画面を見てみると、舘林さんからである。


「もしもし」


「安藤君、今どこにいるのよ? メンバーみんなもう待機してるわよ?」


「メンバー? なんのでしょう?」


「はぁ、あきれた……遠足では缶蹴りするって言ったでしょう」


「ああ~、なんかそんなこと言ってましたね」


 そういえば、舘林さんが妙にこれを遊びたがっていたな。色々ありすぎてすっかり忘れていたぞ。っていうか、俺もメンバーに入っていたのか。


いろどり中央広場で待ってるから、さっさと来なさいよね」


 そう言い残し、通話は乱暴に切られる。

 面倒だが、レク係の務めは最後まで果たさねばならない。俺は、重たい腰を上げ、彩中央広場へと向かった。


♢♢♢


「チクショウ、チクショウ……」


 もう、これで何度目だろうか。蹴られた空き缶を立て直す。

 俺が合流してすぐさま始まった缶蹴り大会。遅れた罰として最初の鬼にされたのだが、誰一人捕まえられないまま、無情にも缶はどんどんとクラスの連中に蹴り上げられていく。


「アンドレ、しっかりしろー」(高江洲)


「あはははは」(奥平)


「アンドレ君、遅いピョン~」(うさ美)


 汗と一緒に涙も出てきた。これ、永遠に終わらないんじゃないか。


「それー!」(南田)


 連中の探査に戸惑っていると、またも遠くから缶を蹴り上げられた音と声が。


「くそー! 誰だよ、バッキャロー!」


 マジの本音を叫び、俺はまたも缶を立て直す。化物体力のクラスの連中を捕まえろということ自体、そもそも無理ゲーなのではなかろうか。


「安藤君、大丈夫ですか?」


「うるせぇ、馬鹿にしてんのか!」


「と、とんでもないですよ。私はただ、心配で」


 様子を見に来た小枝を、ジト目で睨む。


「そうだ、私、無防備ですよ?」


「は? 何だと?」


「捕まえるなら今かな~と思いまして」


「捕獲!」


 俺はすぐさま小枝にとびかかり、ヘッドロックの態勢に入る。そして、これまでの鬱憤うっぷんを晴らすように髪をくしゃくしゃにきむしる。


「ひぇぇぇ、すいません、すいません。降参ですぅぅぅ」


 しばらくして開放してやると、クシャクシャになった髪を整えながら小枝が言う。


「はい、捕まりました。というわけで、鬼交代です」


「え? いいのか? それで」


「はい、みんな多少のルール変更は大目に見てくれると思いますので。ここからは小枝にお任せあれ」


 そう言うと、小枝は広場に響き渡る大声で宣言する。


「鬼交代でーす! 今から小枝が鬼でーす!」


 林の方から、クラスメイトの慌てる声と木々のざわめきが聞こえる。


「よーし、じゃあ行っきますよ~!!」


 途端、小枝が恐ろしいスピードで駆けだしていく。


「お、おい! 待てって」


 とても追いつけそうにはないが、とりあえず様子が気になるため、俺は後を追いかけたのであった。

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