第48話 奪われたゴザ

 公園内を散策していると、小川の見える土手があり、ちょうどいい感じの木陰も見つけた。俺はすかさず準備していたゴザのレジャーシートを敷き、寝っ転がる。

 程よい疲れが丁度よく、昼食後ということもあり、あっという間に睡魔が押し寄せてきた。


(BBQ機材の返却は済んだし、レク写真の枚数も稼いだし……)


 この安らぎを阻むものは何もない。思いきり寝させてもらおう。

 だが……。


「安藤、お前良いもの持ってんな」


「ううん……はい?」


 寝付いたところすぐ、誰かに声をかけられた。目をこすり確認してみると、担任の三科がしゃがみ込むようにこちらの顔をのぞいていた。


「なんですか? せっかくいい気分で寝てたのに……邪魔しないでくださいよ」


「そう言うなよ。それが恩人の三科先生に対する態度か? 誰が昼飯代を立替えたと思ってんだか」


「それは感謝してますけど……」


「だったらほれ、少しスペース開けろ」


 三科は俺を押しのける様に、ゴザへと侵入してくる。


「ああ~……こりゃ良い」


 三科は伸びをすると、俺の横で昼寝の態勢に入る。


「ちょっと、二人は狭いですって。出てってくださいよ」


「いいから、いいから。お気になさらず」


 くそ、こいつめ……俺の寝床を狙ってやがったな。小枝みたいな言い回ししやがって。


「三科先生、もう何やってんですか」


 おっ、いいところに結原教諭が来た。この人をどこかに連れて行ってもらおう。あんたらには教員としての仕事があるでしょってね。


「結原先生、三科先生が帰らないからどうにかしてください」


「あら……ダメですよ、三科先生。安藤君の邪魔しちゃ」


「そう固いこと言わずにさ、菜乃ちゃんも寝てみろって」


「え~、そうですかぁ? すいません、安藤君。ちょっとお邪魔しちゃいます」


「ええっ」


 結原教諭もなぜか寝っ転がる。そして、結原教諭が入ってきたことにより、俺は完全にゴザから押し出された。こいつらの連携プレーじゃないのかなと疑ってしまうほどに華麗なる奪取。俺は寝床を奪われてしまった。


「お昼寝はゴザに限りますね~」


「だよなぁ~、日本人ならやっぱわびさびよなぁ~」


 俺が持ってきた敷物だぞ。あんまり調子に乗られるのもまずいので、出て行ってもらおうとお願いしたが。


「くかぁ~……」


「スゥスゥ……」


 時すでに遅し。教諭二名はもう眠りに入っていた。マジ寝である。

 なんともあられのない教師の姿である。


「ったく、こんなの見せられてこっちはどうすればいいんだか」


 二人を恨めしく見つめていると、続いて無防備なスカートの中央へと目がいく。途端、ピコーンと俺の脳内に電球が輝いた。すぐさま傍にあったデジカメを構える。


「寝床を譲ってやったのだ。これくらいしてやっても罰は当たらないだろう」


 俺は恨みを晴らさんと、何枚かベストアングルをパシャッてやったのであった。

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