第33話 高江洲家 その1

 ドレミの次に、俺は基礎的な知識を高江洲よりレクチャーされる。

 ギターにおける細い部分はネック、線は弦と呼ばれ、1~6弦まである。さらに先端から区切られているものをフレットと呼び、多いものでは20フレットまであるそうな。


「なるほど、こういう暗記系は得意だ。で、次は何を覚えればいいんだ?」


「そこで、これ」


 俺は高江洲より『初心者のためのギター講座』という本を渡される。先ほどの知識を踏まえ、押さえた指の音程をコードと呼び、そのコードを順序良く組み合わせることにより旋律せんりつを奏でていくようだ。

 楽譜よりも親しみやすいのかと思いつつも、各レクチャーソングに記載されているオセロみたいな図式。しかも、コードの抑え方をどこ目線から見ればいいのか……。

 弾き手側か? それとも正面か? ずぶの素人にはなかなか手厳しく、ある意味、数学の数式よりも頭がごっちゃになる。


「高江洲、やっぱギブアップしてもいいか?」


「ま、待て待て! どれでも使える有能なコードがあるから、まずはそれから弾いてみようぜ」


 弱気な俺に対し、慌てた高江洲は予備のギターを出してきて、目の前で実演を開始。まず、教えもらったCのコードは比較的覚えやすく万能らしいので、それを手始めにいくつかのコードを真似して弾いてみる。

 しかし、このギターというもの……なかなかに作業が細かい。テレビではジャランジャランと簡単そうにしていたが、こんなに難しいものだったとは。


「ただいま~」


 悪戦苦闘していると、玄関より誰かが帰宅してきた模様。


「あ、お姉ちゃんおかえり~」


「おかえりなさい~」


 高おと(高江洲おとうと)と高いも(高江洲いもうと)が玄関で出迎える女性……セーラーの制服を着ているので、中学生のようだ。

 また高江洲の妹か。高江洲妹その2、略して『高いも2』だな。


「お兄ちゃんただいま……って、あ、お客様いたの!?」


「おう、兄ちゃんの友達でアンドレって言うんだ」


「初めまして、高江洲さえです」


「どうも……安藤です」


 俺も軽く自己紹介し、頭を下げる。


「お姉ちゃん、今日の夕飯なに~?」


「今日はね、カレーだよ~」


「やったぁぁぁ」


 弟と妹に引っ付かれ、優しそうに答える高いも2。この高江洲家……一体、何人兄弟いるんだか。


♢♢♢


 コードをひたすら練習している内に、時刻はあっという間に18時を回る。高いも2が作るカレーが、夕飯時とうまそうな香りを漂わせてくる。そろそろおいとましようかと、俺が切り出そうとすると……。


「アンドレさんも夕飯食べていきませんか?」


「あ、いや……それは申し訳ないんじゃ」


「いえいえ、そんなことないですよ。皆で食べたほうがおいしいですし」


「食べていけって。どうせ、一人暮らしなんだろ」


 高江洲が軽く肩を叩く。二人に引き止められ、このまま帰るのもなんだか失礼な気がしてきた。夕飯も特に当てがあるわけではないし、この際、ご馳走になるのも悪くない。


「すいません、ではお言葉に甘えさせてもらいます」


 こうして、高江洲家で夕飯までご馳走になる俺であった。

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