第34話 高江洲家 その2

「アンドレさん、おかわりどうですか?」


「あ、すいません。いただきます」


 高いも2が俺のお皿にカレーを再度盛り付けてくれる。気立ての良い子だ。そこんとこは兄に似なくて良かったなと常々つねづね思う。


「あー、アンドレの兄ちゃんばっかずるい! 僕も僕も!」


「私も~!!」


「はいはい、待ってね」


 うんうん、良いお母さんという感じだ。しかし、まぁ……温かい家庭に俺という存在が影を落としてないか? なんだか一家団欒だんらんに場違いさを感じる。調子に乗っておかわりなんかしなきゃよかった。さっさと食べて帰ろう。


「ただいまぁ~」


 そんな矢先、またも誰かが帰宅してきた。今度は一体誰だ?


「いい匂い~♪ さえ~、お母さんにも頂戴ちょうだい~」


「あ、お母さんおかえり」


「「おかえりなさい~」」


「おふくろ、おかえり」


 帰ってくるなり居間のテーブルに座る女性は、どうやら高江洲家の主のようだ。よれよれのシャツにスカート、いかにもくたびれた中年女性という感じはぬぐえない。

 高江洲家の主は、我が家にいる見慣れない人物たる俺を見つけると、すぐさまニヤけ顔になる。


「あらぁ、もしかしてさえのボーイフレンド?」


「ち、ちがうよ! お兄ちゃんのお友達!」


 高いも2は慌てた様子ながらも、否定した後に母親のカレーをテーブルへと置く。


「冗談よ、やぁ~ね」


「こいつは俺の同級生でアンドレって言うんだ」


 すぐさま高江洲が俺を紹介した。

 高母たかはは(高江洲母の略である)は、家庭の団欒だんらんに俺がいることを気にすることもなく、カレーを頬張りながら質問してくる。


「へぇ~、安藤レン君っていうの?」


「いえ、作仁さくひとです」


「あら、やだぁ~。全然ちがうじゃない、あははは」


 くたびれつつも、見た目は少し若々しい印象だったのに……笑い方を見る限りやはり年相応のおばさんのようだ。


「どうせ壮がつけたんでしょ。変なあだ名で、レン君がかわいそうじゃない」


「作仁です……」


「アンドレかっこいいじゃんか。なぁ、アンドレ」


「あのね、お母さんたち世代でアンドレといえば、かの男装の麗人を射止めた、ものすごーく素敵なお方なのよ? 気まぐれでもあだ名なんかにしちゃダメなの。ねぇ? レン君」


「作仁ですってば……」


 酔っているのだろうか、高母……。


♢♢♢


「壮~、あんたこれからバイトでしょ? レン君送ってやんな~」


 え、バイト? 高江洲の奴、バイトしてるのか……っていうか今から? もう19時も過ぎてるぞ。


「わかってるよ。じゃあアンドレ、明日も練習だからな」


「あ、ああ……わかった」


 作業着に着替えた高江洲について行くように、俺は高母たちに見送られつつ高江洲家を後にしたのだった。

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