第15話 一悶着

 定期テストの結果から、数日……俺はあんなに嫌っていた遅刻ギリギリで登校するようになってしまう。深夜までのオンライン授業でつねに寝不足のためだ。顔にニキビはできるし、目の下にクマはできるし、頭はふらふらする。それでも、あいつに一矢報いたい気持ちを原動力から、勉強けの日々を過ごしていた。

 クラスの朝活にもまったく参加せず、お昼時間は軽食を済ませ、すぐさま教室で前日の復習。授業中も聞かずにひたすら問題集に取り組んでいた。


 そんなある日、いつものようにふらふらと教室に到着すると、みんな既に朝活(食料調達)から帰ってきていた。


「いよ! アンドレ」


 茶髪が今日こそは逃すまいと、朝一で俺の背中を叩き、話しかけてくる。


「最近どうした? 疲れきった顔して」


 茶髪の言葉を皮切りに、クラスの連中が俺のまわりへと押し寄せ、次々に声をかけてくる。


「みんな心配してたんだ、最近アンドレが調理実習室に来ないって」(南田)


「せっかく腕によりをかけて昼ごはん作ってるのにさ~、頼むぜアンドレ」(川岡)


「あ、もしかして恋の悩みとか?」(モブ眼鏡B)


「ぴょん! アンドレ君も隅に置けないぴょん♪ みんなで応援するぴょん♪」(うさぎ)


 あははと笑いが起こる。こいつらのふざけた言動に、俺のひたいに怒りのしわが浮かび上がる。


「やかましい、いちいち俺にかまわないでくれ」


「なんだよ、みんな心配してるんだぞ~? アンドレ」(茶髪)


「アンドレって言うんじゃねぇ! この茶髪が!」


 俺の怒号に、あたりがしんと静まりかえる。


「ちゃ、ちゃぱ……何キレてんだよ。冗談だって、なぁ、トモ」(茶髪)


「う、うん。ごめんね……気にさわったよね」(モブ眼鏡B)


「でも、ともちゃんは悪くないぴょん」(うさぎ)


「うさぎは黙れ!」


「ぴょん!?」


「お、おい! うさ美にまでつっかかんなよ」(茶髪)


「あ? お前らさっきから鬱陶うっとうしいんだよ。心配するふりして、本当は裏で俺のこと笑ってんだろうが!」


「アンドレ、それは誤解だ」(南田)


「大体、どいつもこいつも気に入らねぇんだよ」


「てめぇ、いい加減にしろよな!」(茶髪)


 茶髪が俺の胸ぐらに掴みかかる。


「壮! やめろ!」


 南田が慌てて、茶髪の手を引き離す。


「ほ、ほら見ろ。すぐに手を出しやがって……口ではなんだかんだ言いながら、結局よそ者の俺を快く思っていない証拠じゃないか」


「ちっ……わーったよ。もう何も言わねぇよ」


 日々のストレスでイライラしていたとはいえ、俺のせいで教室は険悪なムードになる。


「大体、都会の学校から来たって威張いばってるけど、実際はいられなくなったんじゃね-の? アンドレ問題児っぽいし、もしかして退学とか?」


「なんだと!!」


 図星をつかれたことによる怒り。普段なら考えて対処するのはずが、正常な判断を欠いた俺は、反論よりなによりも先に、茶髪に掴みかかっていく。


「お前に何がわかるんだ! こっちだってなぁ、好きでこんなド田舎に来たんじゃねぇ!」


「なんだよ、やんのかよ!」


 取っ組み合いになる俺たちを、クラスの連中が必死に止める。


「こら、やめろ! お前ら!」(南田)


「お願い、やめて! 壮君! アンドレ君!」(モブ眼鏡B)


「た、大変だぁ」(川岡)


「け、喧嘩はダメぴょん」


 クラスメイトたちの仲裁もむなしく、俺たちはなおも取っ組み合いを続ける。そんな騒動のさなか、茶髪の背後に光る眼をした影が忍び寄り、鋭い手刀を奴に繰り出す。


「ぐえっ!」


 その攻撃を繰り出した主、正体は担任の三科であった。


「転校生と揉めんな」


 手刀を浴びせられた茶髪はすぐさま地面に伏し、動かなくなった。そして、みんなもその光景を前に、言葉を失くしている。


「安藤、お前もお前だ。みんな本当に心配しているのに、自分勝手なことばかり言いやがって」


「冗談じゃない! 誰がそんな事頼んだよ」


 俺は憎まれ口を言い放ち、いたたまれない気持ちから、その場を逃げるように飛び出した。


「あ、安藤君。やほ……」


 廊下で登校中の小枝に出会うが、無視するように走り抜けた。

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