第16話 やっちまった

「はぁ……ミスった」


 やっちまった。


 公園のベンチに座り、俺は天を仰ぐ。この学校では争いごとなど起こさぬよう、さんざん気をつけていたつもりだ。なのに、転校から一ヶ月も経たぬ内から、もう騒動を起こしてしまった。

 もちろん、悪いのは俺だ。茶髪やクラスメイトは仲間を思っての行動だったの対し、俺の方はうまくいかないことでの八つ当たり。こんな時だけ、何とかしてくれと神様、仏様とお願いしたくなる。やり直すチャンスを与えたもらったはずなのに……とんだ根性なしに自分が心底嫌になる。


「もう学校やめるか」


「どうしてですか?」


「だって、あんな騒動起こしたんじゃ……って、おい」


 誰と話してんだ? と慌てて認識すると同時に、ベンチ隣にちょこんと座る小枝を発見した。


「お前いつの間に?」


「ふふふ、こう見えてかけっこには自信があるんです。安藤君を追いかけてきました」


「追いかけてって……お前は現場にいなかったからわからないかもしれないけど」


「知ってますよ。秀ちゃんから少し事情は伺いました」


「秀ちゃん?」


「南田秀だから秀ちゃんです」


「あいつのことか。だったら、なおさら俺を追いかけてくる理由なんてないんじゃないのか」


「どうしてでしょう?」


「俺の本質がとんでもないクズだからだよ。勉強、勉強ってひけらかして、裏では自分より成績の悪い奴を見下してるんだ」


「そんなことないです。実際、安藤君は勉強できてすごいです。三科先生の問題全部解いちゃうくらいなんですから」


「あのなぁ、どうしてそうなるんだよ」


「どこか、おかしかったですか?」


「はぁ……もういいや」


 俺はがっくりとこうべれる。


「安藤君、なにかありました? すごく思い詰めた顔してます」


「恥を承知で言うけど、ずっと成績が上がらないんだ。このままじゃ、永遠に一番になんかなれっこない」


「安藤君、いつも頑張ってます。それでもまだ足りないんですか?」


「一番をとるってことは難しいんだよ」


「どうして一番にこだわるのでしょう?」


「俺には、それしかないんだ」


「一番って……そんなに大切でしょうか」


「お前にわかってたまるもん……」


 屈託のない瞳でこちらをじっと見つめる小枝。小さい体のくせにどこか真っ直ぐと力強いその瞳を見てると、自分の弱さを見透かされているようでひどく恐ろしくなる。


「な、なんでもない」


「安藤君が苦しんでいるのを見るのはつらいです。私だけじゃなくて、みんなも」


「心配なんかしなくていい。前の学校でも、俺はずっとこうだったんだ」


「確か、安藤君が以前通っていた進学高校のことですか?」


「ああ」


 俺はふと過去のことを思い出し、ゆっくりと話しだした。


♢♢♢


『すごいですね、安藤様!』


『また学年一位です!』


 男子、女子の入り混じった集団が俺の後方を追っかけのようについてくる。


「当然だ、なんせ俺の名は?」


『『『安藤様です!!!』』』


 そう、あれは高校一年生の頃のこと。俺は常に取り巻きと呼ばれる集団に囲まれ、それを牛耳ぎゅうじる地位にいた。

 なんせ都心でも有名な進学校を首席でパスし、試験では常に一位はあたり前。そんな俺にどいつもこいつもびを売ってきた。そして、なによりこれは俺自信の力だと錯覚していたのだ。


 そう、あいつに出会うまでは……。

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