言葉にしないと伝わらない
束白心吏
言葉にしないと伝わらない
言葉にしないと伝わらない――これは俺の座右の銘である。別段、壮絶な過去があるとかではなく、17年生きて来て得た教訓である。
好きも嫌いもウザいも寂しいも……どれだけ思っても相手には伝わらない。伝えるには言葉にしなければならない……と、中学の頃の友人から学んだ。
しかしながら言葉にして伝えるというのは結構難しいもんだ。例えば――
「
――そう、好意とか。
「……は?」
「聞こえませんでしたか? じゃあもう一度――」
「違う違う! 聞こえてた。聞こえてたから言わんでいい!」
俺は慌てて好意を伝えて来た目の前の女子――
てか好き? 誰が、誰を。
「聞こえていたのなら、私が何て言っていたか復唱してくれませんか」
「結婚前提で付き合って」
「はい。よろこんで」
「復唱しただけだわ返事すんな策士! てか恥っずいこと言わせるなぁ!」
真夜中の公園に俺の声が無駄に響いた……迷惑だろうなぁ。就寝前にごめんなさい!
「? そこを切り取って言ったのは佐久耶くんですよ?」
「確かに俺だけども! 自分の名前を呼びたくなかったし」
「それに『咲姫から告白を受けた』と言えばいいじゃないですか」
「復唱ってお前言ったよな?」
津木華はコテンと首を傾げる。天然か!
そんなしょーもないやり取りで、フリーズしていた頭も少しは動くようになってきた。えーっと? 夜中に津木華が俺を公園に呼び出して告白してきたんだったか。
「てか、人違いじゃないか?」
「……私の知り合いに佐久耶知流くんは一人しかいませんし、そんな初歩的なミスはしません」
「……じゃあ好きってのはライク的な?」
「…………ラブに決まってるじゃないですか」
「……」
はぁ!? いや、ホントに……はぁ!?
意味わからん! 言っちゃあアレだが、俺はモテるような容姿をしていなければ言動もしてない。寧ろ好きな人は好きだし嫌いな人は嫌いな性格をしていると俺自身でさえわかってる。それでもやめなかった俺も俺だが――少し思考が脱線した。
そもそも、俺と津木華では住む世界が違う。カーストトップで成績優秀な――噂によればだが――お嬢様な津木華。
それに対して俺はカーストを自由に行き来するくらいしか特徴のない、カースト上位の6割くらいに嫌われているモブ。
カースト云々抜きにしても、住む世界が違う。まあこうして夜な夜な会うことは以前からあったが、それも健全なものだった。
それなのに……好き? 付き合ってくれ? 結婚しろ? 嘘を吐くような奴ではないと知っているし、口調からして真面目に言ってるのはわかる。しかし……はあ? 駄目だ情報が多すぎて頭が回らん。
「……本当に、人違いじゃないか?」
「……合ってます。私が告白したのは佐久耶知流くんです」
そう断言されては、疑いようがない。目の前の高嶺の花は俺を好いているらしい。
「嬉しいけど……俺なんかで本当にいいのか?」
「なんか、なんて私の好きな人を卑下しないでください。それに、佐久耶くんだからいいんです」
……理解できない。いや、脳が理解を拒んでいる。
「どうして俺なんだ? 卑下するわけじゃないが……俺より素的な男性は沢山いるぞ?」
「そうかもしれませんけど、私には佐久耶くん以上に素的な男性はいません」
そう言われるとなんとも言い返せないな。
私には、か……。
「流れ壊すようで悪いけど、言ってて恥ずくねぇの?」
「……こんなこと、夜じゃないと言いませんよ」
それに――と、更に津木華は言葉を続ける。
「言葉にしないと、伝わりませんから」
どこか拗ねた言い方をする津木華に、思わず苦笑がこぼれる。
今が昼間なら、高嶺の花の貴重な表情が見れたかもしれないな。
「それで、答えはどうですか?」
「……不甲斐ない彼氏になると思うけど、よろしく」
こうして俺達は付き合うことになった。
その帰り道。
「そうです。恋仲になったので、私のことは咲姫、と」
「じゃあ俺のことは知流、な」
「それは恥ずかしいので、佐久耶くんだけで」
「理不尽だなぁ」
それすらも可愛く思えるし……はぁ。
期待している視線がビシビシと伝わってくる。これ、言わないと帰さないとか言われそうだよなぁ。
「……咲姫」
「――ふふ、なんですか。佐久耶くん」
「呼んでみただけ」
「別に呼んで欲しいとは言ってないですよ?」
繋がれた左手は、嬉しさを表すかのように、更に強く握られた。
痛くはないが、ホント理不尽だわ。はぁ……。
言葉にしないと伝わらない 束白心吏 @ShiYu050766
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