第5話   再会

 エスペランスはアリアのにおいを辿った。冒険者が集まるギルドでにおいは消えた。

 聖女だと分かって運ばれるなら、教会だろう。教会に行ってみたが、アリアの姿はまだなかった。移動中だろうか?それとも男に連れ込まれている可能性も0ではない。

 アリアを運んだという冒険者を見つけて、そこにアリアの姿がないことを見て安心した。

 すぐに教会に飛んだ。

 きっと馬車で運ばれているのだろう。

 到着は何時だろうか?

 朝まで待って、やっとアリアの姿を見た。

 人が多すぎる。アリアを奪い返すためには、できれば、アリアと二人になれるときが望ましい。


 魔王の姿は、見せてはいけない。

 ベルの時、魔王の姿を見て、騎士達が攻撃してきた。最悪、ベルの時のように、アリアを失うことになるかもしれない。だから、耐えるより仕方がなかった。


 人は悪魔より残酷だ。

 何もしていない、何の攻撃もしていない、ただの女の子に大勢で暴力を振るう。

 数が数え切れないほど、棒で身体を打ち付け、意識を失っても、身体をひっくり返し、今度は腹を叩く。


 美しい肌は、赤く腫れ、血が流れているのに、打ち付けている者はなんとも思わないのだろうか?朝から始まった体罰は、夕方近くまで続き、やっと終わった。

 意識を失っているからと、食事は与えられない。

 夜は刃物を持ったシスターが、見張りをしている。


 刃物一つくらい、どうにもなろうかとも思ったが、万が一、心臓を貫かれたら、命を助けることは難しくなる。アリアの身体は弱っている。長時間の体罰で、発熱もしているようだ。


 私は深夜に、アリアを叩いた奴らとアリアの大切な場所を触った奴の心臓を握りつぶしてやった。ささやかな仕返しだ。

 アリアを祈りの部屋に連れて行く役目のシスターは、怯えている。

 次は自分ではないかと……。だから余計な事は口にしない。

 こいつも手に刃物を持っている。後で心臓を握りつぶしてやる。

 深夜見張りをしていたシスターの心臓も握り潰してやった。

 一晩中、刃物を向けていた奴だ。同情してやる欠片もない。



 血に染まった手を綺麗に聖水で洗って、私はアリアの前に立った。

 祈りを捧げているアリアの集中力は凄まじく強い。私はアリアを攫うように抱きしめて、姿を消した。



「ランス様」



 抱きしめられて、初めて気付いたのだろう。

 目を開けて、驚いた顔をしている。

 そこが人間界でないことが分かると、薄紅色の瞳に涙の膜が広がっていく。



「迎えが遅くなった。痛かったであろう」


「……ランス様」



 アリアは私の胸に抱きついて、声を上げて泣いた。



「痛みを取ってやる。傷一つ残さずに綺麗にしてやる」



 アリアが泣きながら頷いている。

 魔術を使い、アリアの傷を消して、痛みも消してやった。足首の緩んだ靱帯も正すと、やっと少し落ちついてきた。



「ランス様、わたしに食事をください。今日も昨日も一昨日も、食事がもらえなかったの。お腹が空いて……」



 ふらりと目眩を起こして、私に抱きついてきた。

 傷は治せても炎症までは完全に治せない。発熱と空腹で、もう立っているのも限界なのだろう。



「ダイニングに行くか?」


「はい」



 アリアを抱きしめて、ダイニングに飛んだ。

 使用人のすべてがアリアの姿を見て、ホッとしている。



「奥様ご無事で何よりです」



 アリアを椅子に座らせると、モリーとメリーがオレンジジュースを注ぎ、ナイフとフォークを並べていく。



「食事を食べさせてもらってなかったらしい。美味しい物を至急頼む」


「畏まりました」



 キッチンの中で、素早くシェフ達が動く。



「アミーキティア様がわたしを置き去りにしたのです。宮殿に戻りたくても、宮殿がどこにあるのか分からなくて……」



 アリアはまた涙を流した。



「人間に捕まってしまったのです。……わたし、人間のはずなのに人間が怖かった……」


「よく堪えた」


「……はい」



 私は椅子に座るアリアを抱きしめて、涙が止まるまで泣かせてやった。


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