第6話   安らぎ

 食事を終えると、やっとアリアは落ちついた。

 エスペランスはアリアを部屋に連れて行くと、ミーネが泣き出した。



「ご主人様が心配で、……ご無事で良かったですだ」



 ミーネが号泣すると、アリアもまた泣き出した。



「とても帰りたかったの」



 アリアはミーネと抱きしめ合って泣いている。



「わたしへのお客様は、これからすべて断ってください。わたしはランス様とミーネがいてくれたら、お茶の時間も寂しくないわ」


「分かった。これからは無理強いはしない」


「約束よ。アミーキティア様とも、もう絶対にお茶会はしないわ」



 アリアは完全に人間不信になってしまった。


 アミーキティアが一番悪いのだが……。



「ミーネ、アリアは熱があるんだ。休ませてあげよう」


「なんと!お熱だか?すぐに準備をするだべ」



 ミーネはいち早く、現実に戻って行くが、ショックが大きすぎたアリアは、すぐに泣き出してしまう。



「ほら、あまり泣くと、疲れてしまうよ」



 ミーネは濡らしたタオルをエスペランスに渡すと、エスペランスはアリアの顔を拭ってやる。



「ミーネ、アリアの足を濡れたタオルで拭ってから、ネグリジェに着替えさせてくれるか、私はアリアを連れ戻したことを知らせてくる」


「どこかに行ってしまうの?ランス様」



 アリアは急に怯えて、震え出す。



「瞬間移動だ。着替えが終わる前に戻ってくる」


「約束よ」


「ああ、約束だ」



 約束が嫌いだと言っていたアリアが、約束という言葉を使った。

 信頼関係は築けているのだろう。

 エスペランスは離宮の父のところに飛んだ。



「アリアを助けたが、目が離せない状態だ」


「アミーキティアはまだ戻らん。リベルターとドケーシスが探している。ルモールの所に来たら、連れてくるように伝えてある」


「助かる。今はアリアだ。アミーキティアの事は頼む」



 それだけ言うと、すぐにアリアの元に戻った。

 祈りを捧げていたとき、石の上が汚れていたようで、アリアの膝から下が、汚れてしまっている。



「洗った方が早いわ」


「ご主人様がタオルで拭くようにとおっしゃっただべ」



 まだ二人は足の汚れのことで言い合いをしていた。



「ランス様、お帰りなさい。足の汚れを洗ってもいいですか?」


「気になるなら、洗ってやってくれ」


「ほらね、ミーネ」


「ご主人様の言葉は守らなくていけないですだ」


「ミーネのご主人様は誰なの?」



「魔王様とアリア奥様だべ」


「それならわたしの言うことも聞いてくれなくちゃ」


「奥様はお熱があるだべ。安静第一だべ」



 二人は浴室のシャワーで足を洗いながら、言い合いをしている。

 涙がやっと止まって良かったが、アリアの熱は上がってきている。



「アリア、着替えてしまおうか?」


「ネグリジェ、持ってきますだ」



 ミーネが素早く走る。

 ネグリジェを受け取ると、「氷枕をもらってきてくれ」と言ってミーネを浴室から追い出した。

 アリアのワンピースを脱がせると、全体的に赤く腫れている。傷は治せても炎症は完全には治まらない。



「痛いか?」



 アリアは首を振った。


「でも、腫れていますね」


「炎症が引くまでに数日かかるだろう。この発熱も炎症からきている」


「わかったわ。痛みを消してくれてありがとう。とても痛かったから」



 ネグリジェを着せると、抱き上げず、瞬間移動を使う。



「抱き上げたいが、たぶん、抱き上げれば痛いだろう」


「はい」



 アリアは自分でベッドに上がった。



「持ってきたべ」



 ミーネは髪を乱して、耳も髭も尻尾も出ている。

 アリアは微笑んだ。



「ミーネ、可愛い」


「嬉しいだべ」


「耳も髭も尻尾も出ているぞ」


「ひゃ!」



 ピコッとすべてが引っ込んだ。



「今夜はアリアを看ながら休むから、上がってもいいよ」


「おやすみ、ミーネ」


「おやすなさいだべ」



 ミーネは深く頭を下げて、寝室を出て、アリアの部屋の灯りを消すと、部屋から出て行った。



「無事に戻って来て良かったべ」



 ミーネは久しぶりに、自分の部屋に戻った。




 アリアの頭の下に氷枕を置くと、ベッドをウォータベッドに替えた。



「この方が、炎症も熱も引くだろう」


「水に浮かんでいるみたい」



 エスペランスはベッドに上がると、アリアを抱きしめた。



「よく眠りなさい」


「はい」



 アリアはエスペランスに甘えるように身体を寄せると、目を閉じた。


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