第4話   裏切り

 ゴブリンが岩の陰からアリアの様子を見ている。



「少し待ってくださいますか?転んだところが痛くて……」


「ああ、いいけど、ここは魔界だから、急いで人間界に戻らなければ、命の保証はない」


「……そうね。でも痛くて歩けないわ」



 アリアは傷を負い、足を捻挫していた。

 エスペランス様が気付いてくれるといいけれど。

 痛みは伝播すると言っていた。

 時間稼ぎをしたかった。



「負ぶってやるよ」



 親切な人間だった。



「でも、重いわ」


「女の子一人くらい、背負えなくて魔窟の冒険者など務まらないさ」



 男性の一人が、アリアの前に屈んだ。

 アリアは仕方なく、その男性の背中に身体を預けた。



「お願いします」


「気にするな」



 男性は軽々、アリアを背負って立ち上がると、魔窟の中に入っていった。

 アミーキティアの指示で、アリアは白いワンピースを着ていた。

 まるで聖女様だ。

 エスペランス様助けて……。

 アリアは心の中で呼び続けていた。


 +


 アミーキティアは自宅へ帰っていた。

 魔石の花の存在は噂で聞いていたが、うまく手に入れられるとは思っていなかった。

 アリアは几帳面でお人好しだ。上手く使えばゴブリンを騙すことくらい容易くできそうな気はしていた。

 その後は、魔窟を通って人間界まで連れて行き、冒険者に預けてしまえば、アリアは自力で魔界に帰ることはできなくなるだろう。

 逃亡者のアリアは、人間界では罪人になるはずだ。

 上手くいけば、人間がアリアを殺してくれる。

 作戦は成功だ。

 最初からお弁当は作っていないし、早朝に宮殿を出たのは、エスペランスお兄様は今日は朝から定例会議があるからだ。何か違和感を覚えていても、すぐには動けないだろう。

 すべて予定通りに片付けた。


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