第3話   魔窟の花(2)

「どうしても譲ってはくれないのかしら?」


「魔石の花は我々の守り神ですので、命をかけて守り抜きます」


「なんですって?」



 アミーキティアは掌から炎を出して、ゴブリンの住処を焼きだした。



「アミーキティア様、おやめください」



 カリンが慌てて、アミーキティアを止めようとしている。



「魔石の花を出したら、止めてあげるわ」



 アミーキティアの攻撃は一方的で、ゴブリンまで焼き尽くしている。

 ゴブリン達の悲鳴があがって洞窟の中に響いている。



「アミーキティア様、ランス様はそんな事は望んでいないわ」


「お黙りなさい」



 ゴブリンの小さな家まで焼いて、洞窟の中が煙で充満していく。



「苦しいわ」


「人間だから、苦しいのよ」



 ゴブリンも苦しいのだろう。洞窟の中を走り出した。

 アリアもゴブリンに付いて、走り出した。

 あの場所にいたら煙に巻かれて死んでしまう。

 洞窟を抜けると見慣れた空が見えた。

 人間界だ。

 ゴブリンが大量に倒れている。

 アリアは、急いで歌を歌って、ゴブリンの命を救っていった。

 ゴブリンが次々に起き上がり、洞窟の外に座りこむ。



「もしや聖女様ですか?」


「はい、元聖女でした」


「命を助けてくださりありがとうございます」



 よく見ると、スライムも洞窟から避難していた。



「洞窟の中に、まだ怪我人がいるかもしれないわ」



 アリアはハンカチで口を押さえて、洞窟の中に入っていった。

 洋服を着たゴブリンのカリンも一緒に来てくれた。



「やはり倒れているわ。生きているかしら?」


「虫の息ですね」



 アリアは歌を歌った。死んでなければ助けられる。

 その時、洞窟の外からゴブリンとスライムが勢いよく走り込んできた。



「人間だ!逃げろ!」



 ゴブリンが叫んで走って行った。

 アリアも走った。

 ここで捕まってしまったら、もう魔界には帰れなくなる。

 命の保証もない。

 エスペランス様にも会えなくなる。

 息が切れても走った。

 魔界の洞窟の外に出ると、アミーキティアが笑っていた。

 手には魔石の花を持ち、「お人好し」と鼻で嗤って消えた。

 アリアを置き去りにして、消え去った。

 冒険者が追いかけてくる。

 逃げないと……。



「ランス様!」



 アリアは大声を上げた。



「宮殿はどこ?どこに走ったら帰れるの?」


「洋服を着たゴブリンは指を指した。


「東へ真っ直ぐです。急いでください」



 アリアよりゴブリンの方が走るのが速い。

 捕まりたくない。

 エスペランス様の元に戻りたい。

 助けて。

 助けに来て。

 アリアは盛大に転んでしまった。



「待て!おまえ人間だろう?」



 冒険者に、腕を掴まれて起こされる。



「何故、ここにいる?」


「……魔窟の中を清めていたら、火事が起きたの」


「それで逃げてきたのか?」


「こちら側は魔界だ」


「清めていたと言うことは、聖女様か?」


「……はい」


「それなら教会まで送ろう」



 冒険者はたった二人だった。


 アリアは冒険者に捕まってしまった。


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