第4話 アミーキティア
兄の王宮から連れ戻されたアミーキティアは、あれからずっと機嫌が悪い。
第二王子のリベルターと第三王子のドケーシスは、嫁探しを始めた。兄の手前、先に結婚するのも気が引けていて、ゆったりと構えていたが、兄が結婚したならば、そろそろ自分たちも身を固めたいと言い出した。
家族で宮殿に住んでいたのは、父王がまだ現役だった頃だ。
エスペランス兄上は、生まれつき魔力が強く、父はすぐにでも魔王の座を交代する予定だったが、エスペランス兄上は面倒だからと引き継ぎをしなかったが、父も早く引退したくて、エスペランス兄上が100歳の時に、世代交代を行った。それ以来、離宮に家族で移り住んでいる。王宮からはそれほど遠くはないが、近所でもない。
移動は瞬間移動をするので、近くても遠くてもそれほど困ったことはないが、今回は少々面倒な事になっている。
アミーキティアは自宅謹慎を命じられ、屋敷の庭から外へは出てはいけないと結界を張られている。
結界を張ったのは父だ。
「エスペランスの所へは行くな」と命じられている。
アミーキティアは、まだ兄の嫁になりたくて、諦めきれない。
人間の小娘に兄を奪われたといつも苛々して、家族に八つ当たりをして、毎度、母に叱られている。
このままでは、人間の小娘との間に子供ができてしまう。急がなくては……。
「リベルターお兄様、パーティーでも行ったらいかがですか?美しく着飾った乙女達が集まりますわ」
「それはいいな」
リベルターとドケーシスは満足そうに頷いている。
今のところ、この二人の王子に、特定の女性はいない。
今まで婚活などしてこなかった二人の王子に、突然、心ときめく出会いなどない。パーティーを行い年頃の女性を見つけるより、出会いのチャンスは巡ってこないだろう。
「そうしたら、エスペランスお兄様をお誘いできますわ」
二人の王子は、結局、エスペランス兄上を呼び出すきっかけが欲しかったのだと気付かされ、「パーティーは止めだ」と、頭が花畑のアミーキティアの提案を却下した。
「エスペランスお兄様に会いたいわ」
「近親相姦は駄目だと父上も母上も言っておられただろう?そろそろ諦めたどうだ?アミーキティアも婿捜しをした方がいいのではないか?」
「リベルターお兄様、乙女の心はそんなに簡単に諦められないのよ。片思い歴200年以上ですもの」
「長すぎるぞ。どちらにしても無理なのだから、早めに諦めろ。この上、また100年とか阿呆過ぎるぞ」
アミーキティアは頬を膨らまし、リベルターの足を思いっきり踏みつける。
顔だけは可愛らしいのだが、この性格が災いして、アミーキティアの縁談はなかなか纏まらない。
たまにあっても、顔が気に入らないと蹴散らしてしまう。比較しているのが魔王だから、魔王以上の物件は見つからないだろう。ルモールのように若いうちにお嫁に行っておけば、可愛い嫁だと可愛がられるが200歳を超えた女性を嫁に迎えたいと思う男性は少ないだろう。
このまま独身でいたら、末は魔女になるより仕方がない。いつまでも両親の元で蝶よ花よと暮らしている訳にいかないだろう。両親は不死だが、アミーキティアは少しずつ歳を取っていくのだから……。いつか両親より老けていくだろう。
リベルターは不憫な妹の末を案じる。
「お兄様を押し倒しても血の契約をしていただいて、わたくしが王妃になりますわ」
「アミーキティア、エスペランス兄上は。既に血の契約を終えている。どちらにしても手遅れだ」
「それでは、やはり小娘を殺すより仕方がありませんわ」
リベルターは哀れな妹を見て、ため息を零す。
「その考えを改めるまでは、謹慎は解けないだろうな」
「リベルターお兄様……」
アミーキティアは寂しそうな瞳をして、目を伏せた。
「エスペランスお兄様はわたくしを好きになってはくださらないのね……寂しいわ」
せっかく美しい容姿をしているのに、このまま独身で過ごさせるのは不憫すぎる。
アミーキティアにも愛される喜びを教えてくれる殿方が現れるといいのだが……。
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