第6章
情念
第1話 アリア
淡いピンクのワンピースは、スカートにフリルが何重もあって、可愛らしい。
どこかの貴族のお嬢様のようなワンピースが、アリアの衣装部屋にたくさん並んでいる。
エスペランス様の血で作られたネックレスは、元が血だと分からないほど精密に宝石のように作られている。
そのネックレスに、どのワンピースが似合うか、色々試してみたが、赤い色の宝石のネックレスにはすべてのワンピースが似合った。
アリアの瞳は薄紅色をしているので、顔写りもいい。
ミーネは「とても似合うだ」と新しいお守りを褒めてくれた。
今からエスペランス様とデートだ。
扉がノックされて、ミーネが扉を開けると、エスペランス様が部屋に入ってきた。
アリアは嬉しくて、手を伸ばしエスペランス様に抱きつく。
「待たせたのかな?」
「ただ会いたかっただけですわ」
「可愛い事を言う」
優しいキスが、アリアの唇を啄む。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「どこがいいかな?」
「一緒にいられるなら、どこでもいいわ」
「では、行こうか?」
「はい」
アリアはミーネに手を振る。
ミーネが笑顔になって、頭を下げた。
その瞬間、身体が消えた。
エスペランス様はすぐに瞬間移動を使う。
あまり屋敷の中を歩かせないようにしているような気がする。
(わたしは怖がったりしないのに……)
屋敷の中には、見たこともない大きな身体をした三つ目の男性がマントを着けて歩いていたり、小さな身体をした、のっぺらぼうの顔をした性別不明の人?が歩いていたり、人間界とは違う風貌をした人たちがたくさんいる。けれど、すれ違っても、誰もアリアを悪くは言わない。たぶん笑顔で頭を下げてくれる。宮殿の外には四つ目の騎士と三つ目の騎士が立っている。アリアが母の墓地に出かける時は「お気を付けて」と声をかけてくれる。皆優しい。人間界で暮らしていたときのような虐めはない。無視されることもない。食事を抜かれることもない。
食事も美味しく。ダイニングの中の人たちは、皆優しい。
皆が優しく接してくれるので、アリアはこの世界が好きだ。
景色も美しく、野鳥も飛んでいる。のどかで母の墓地にいると、お昼寝してしまうときもある。目を覚ますと、いつもベッドの上だが。
どこにいてもエスペランス様に守られている。
優しく素敵な魔王様だ。
パッと移動した場所は、緑豊かな湖畔だった。
「大きな湖ね」
「たまにはこういう場所もいいだろう」
エスペランス様はすぐに、そこに閨を作ってしまう。
広いマットレスに押し倒されて、口づけを交わす。
キスをしながら、エスペランス様はワンピーを脱がせてしまう。パッとエスペランス様も服を消した。生まれたばかりの姿で、抱き合うことも慣れてきた。
優しいキスも愛撫も好きだ。触れられる度に好きが増していく。
「ランス様、好きです」
「アリアを愛している」
触れる指先が優しい。
エスペランス様はわたしの鼓動を聞くのが好きだ。
いつも生きていることを確認している。
胸の上で耳をあてて、アリアの身体を撫でる。
ドキドキしている事は、言わなくてもエスペランス様には分かっているはずだ。
「可愛いな、アリアは」
鼓動を聞きながら、エスペランス様は嬉しそうに微笑む。
そんな顔をするエスペランス様を、アリアはもっと好きになる。
アリアは包みこむように、エスペランス様を抱きしめる。
(見た目より柔らかな髪も逞しい身体も、わたしのもの)
アリアはこの魔界に来て、自分がすごく独占欲が強いことに気付いた。
エスペランス様を誰にも渡したくはない。
二人が一つになって、アリアはエスペランス様を抱きしめる。
「あまり挑発するな」
「してないわ。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「……愛おしいの」
「愛らしい事を言う」
ことさら優しく肌を撫でられる。
エスペランス様は、わたしの胸を大切に愛撫する。
もう傷も癒えているのに、壊さないように優しく触れてくる。
身体を揺さぶられ、与えられる快感に翻弄されても、わたしはエスペランス様を強く抱きしめる。ずっとこうしていたい。離れたくはない。
行為が終わった後も、足を絡めあい、エスペランス様を抱きしめる。
「今夜はここでこのまま寝てもいいわ」
「食事はどうするのだ?食べないのか?」
「……食事は食べるわ」
きっとシェフ達は深夜になっても待っていてくれる。
その優しさを裏切ってはいけない。
「もう少し、こうしていよう」
「はい」
エスペランス様に抱きしめられ、わたしもエスペランス様を抱きしめる。
いつまでも、この時間が続くといい。
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