第5話   王妃の条件(5)

「なんだか喧しい夜ですわね?」


「嵐でも吹いているのかもしれないな?」



 ネグリジェに着替えたアリアは、ベッドに横たえられた。

 大量出血を起こした後なので、安静にしなければ身体に悪いとエスペランスに言われて、食事を終えて、寝る支度を終えると、ベッドに寝かされた。



「大雨が降っているのですか?」



 起き上がって窓辺に行こうとした身体を、押さえられ布団を掛けられる。



「起きたら駄目だ。ゆっくり眠りなさい」


「お母様のお墓が気がかりなのです。形見のネックレスが流れて行ってしまいそうで」


「埋めたのか?」


「はい。粉々になってしまったので、母の元に返したのです。本当は綺麗な形で返さなければならいのに、母に申し訳ないです」


「直してやろうか?」


「もういいのです。母はきっと許してくれると思うので」



 エスペランスはアリアの頭を撫でて、首に触れる。



「寂しくはないのか?」


「寂しいですけれど、わたしにはランス様がいますから大丈夫です。お母様もきっとランス様と一緒にいたいと思うの。だからお母様にお返しします」


「それなら、雨で流れないように封印をしておこう」


「ランス様、ありがとうございます。きっとお母様も喜んでいますわ」


「安心できたなら、眠りなさい。しばらくは安静だ。胸の痛みがなくなるまでは、おとなしくしていてくれ」


「はい」


「眠りなさい」



 目隠しをされるように、瞼の上にエスペランスの手が触れると、急に眠くなってきて、うつらうつらしかけたとき、『ドン!』と雷が落ちて宮殿が揺れた。

 アリアはハっと目を開けた。ビックリして胸がドキドキする。

 微かな胸の痛みに、胸を押さえ、エスペランスを見上げると、エスペランスは眉を顰めていた。



「もう大丈夫だ。眠りなさい」


「雷が落ちましたわ」


「怖いのか?」


「……はい」


「恐怖より胸が痛むのであろう」


「……どっちもですわ」



 エスペランスはアリアを抱きしめて、アリアの背中をさする。

 痛みが引いてきて、心が安らかになってきた。アリアはエスペランスの腕の中で目を閉じた。

 しばらく抱きしめていると、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 まったく、滞在中は静かにして欲しいものだ。

 アリアの胸にも良くない。治る物も治らなくなってしまう。

 明日、家族には文句を言ってやろうと思いながら、アリアを抱きしめながらエスペランスも眠りに落ちた。


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