第5章

王妃の条件

第1話   王妃の条件(1)

 パーティーの招待状を送ったら、両親と兄妹達が宮殿に集まってきた。



「これは、ようこそ上皇陛下、上皇后、ついでに、リベルターとドケーシスとルモールと、アミーキティア」


「ついでとは失礼ではありませんか?兄上」


「そうですよ、面倒な奴が来たという顔色が浮かんでいますよ」



 第二王子のリベルターと第二王子のドケーシスがじろりと睨んできた。



「お兄様、その首の痣は何ですか?」


「どこの馬の骨とも分からない相手ではないでしょうね?」



 第一王女のルモールは、上から3番目の子だ。第二王女は末っ子のアミーキティアだ。



「お兄様、私以上に可愛い女性はいないといつもおっしゃっていたのに、どうしていきなり婚礼の証を付けて、パーティーを開くなんて」



 アミーキティアが、怒っている。

 アミーキティアだけではなく、兄妹達も両親も激怒している。



「エスペランス、結婚の承諾を聞いていませんよ」



 特に母が激怒している。



「エスペランスよ、せめて血の契約をする前に紹介をするのが筋と言うものだろう」



 父は呆れている。



「もう血の契約は済ませました」



 いきなり大勢で押しかけてきて、アリアは置物のように、固まってしまっている。



「以前に言っていた、ベルという人間か?」


「ベルの娘です」



 ドレスを着ていたアリアは、礼儀正しくお辞儀をした。



「ベルはどうしたのだ?」


「ベルは死にました」


「その代わりに、その娘の子を嫁にしたのか?近親相姦か?」


「いえ、違います」


「では、ベルを奪われ、おめおめと他人に子種を植え付けられ、その子を嫁にしたというのか?おまえは恥という物を知らぬのか?ベルを愛しているとは聞いていたが、嫁はベルの子だと?他人に奪われ、子種を植え付けられ、穢された子ではないか」



 父の叱責で、アリアは俯いてしまった。



「父上、これには事情があったのです」



 人間界でのあれこれを話し終えたが、両親はアリアを認めなかった。

 両親だけではなく、兄妹達も反対をしている。



「魔王の血筋が汚れたではありませんか?」



 母は、パーティーの中止を言いだし、執事に指示を出している。



「父上、アリアはベルの残した、私の宝です」


「なんて、汚らわしいのでしょう」



 溺愛していた末っ子のアミーキティアが、使用人の横に並ぶ、アリアの前に立ち、アリアの頬を叩いた。その時、ベルのネックレスが指に絡まり、忌々しげに手を引いた。

 その勢いで、ネックレスが切れて、床に落ちた。

 魔石が付いていたネックレスは、落下の衝撃で魔石が砕けるように割れた。



「あっ」



 アリアは、割れたネックレスの欠片を集めた。



「魔石なんて、ゴブリンでもはめないわ」



 隣に立っていたモリーとメリーも一緒に魔石を拾っている。



「どうぞ、奥様」


「ありがとう」


「却下よ!却下!奥様なんて呼ぶな。賤しい小娘よ。その存在が恥よ」



 アミーキティアがヒステリックに叫ぶと、母も「そうね」と同意を示した。



「魔王一族には認められません。他の男に奪われてできた子なのでしょう?」



 母は叫んだ。



「人間界の娘を嫁にすると言い出したときも反対しましたけれど、好きになった娘ではなく、娘の子供ですって?論外よ。すぐに離縁をしなさい。その子を殺せば、この結婚は無効になるわ。その手で、殺しなさい」


「殺しません。私はアリアを愛している。生まれ落ちる前から、アリアを無事に産ませ、アリアの成長を見守って来ました。私の宝です」


「何が私の宝よ。ベルにでも頼まれたのでしょう。ベルとの結婚は渋々認めましたけれど、この結婚は認められません。好きな女性すら守れず、子供まで種付けされて恥ではないですか?生みの母を愛していたからと、子供を愛するのは誤解というのです」


「母上、それ以上の侮辱はさすがに、許せません。アリアにも謝っていただきたい」


「とんでもないわ。下等な人間風情で、しかも不実子。あなたが殺せないのなら、その子を殺す指示を出しましょう。魔王は魔王らしく、この国の貴族から嫁を選びなさい。私の可愛い息子や娘達が恥をかくわ」



 母はアリアの前まで歩くと、アリアの顔を覗き込む。



「ずいぶん痩せた子ね。まるでゴブリンのようよ」


「母上、いい加減にしてください」


「寝室は別にしなさい。間違っても子供ができたら、大変な事が起きるわ。魔王界の恥よ」


「それがいいだろう。寝室は別にしなさい」


 父までも、アリアを認めてくれない。

 パーティーは開くべきではなかった。

 このまま黙って、子供ができたときに結婚したのだと伝えれば良かった。

 エスペランスは、結婚できた嬉しさに、家族にも喜んでもらえると思っていた。

 ベルの時は許してもらえたから、アリアも許してもらえると思っていた。



「この結婚の結末が分かるまで、滞在しますよ、兄上」


「もちろん、私達も滞在しますわ」


「早く、殺しなさい」



 両親も宮殿に居座るようだ。

 ダイニングから6人が出て行った。

 扉が閉まった瞬間、アリアは力尽きたように、その場に座りこんでしまった。



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