第6話   結婚式(5)

「お帰りなさいませ」



 ミーネは深くお辞儀をした。



「着る物を用意してくれ。この後、墓参りに行き、その後食事だ」


「分かりましただ」



 ミーネは衣装部屋に急いで入って行くと、カゴに下着と靴下を入れる。ワンピースを選ぶ。アリアを想像すると、いつも白い服を身につけていた。白い服も好きだが、アリアの薄紅色の瞳も魅力的だ。ミーネは赤い色のワンピースを選んだ。瞳の色とよく似た薄紅色で赤でも真っ赤ではない。胸元に白いレースで飾りがあり、スカートも美しいドレープがある。



「可愛いだ」



 ミーネはワンピースをカゴに入れて、ニコリとお辞儀をした。



「奥様、こちらでお着替えいたしましょう」



 昨夜から何度も練習したので、訛りは出ていないはずだ。



「私が着せよう」



 な、な、なんと!

 楽しみにしていたお着替えの手伝いを旦那様がなさるとは……。

 ショックだ。

 笑顔だすだ!



「お願いします」



 耳が垂れてしまう。



「ミーネお茶を淹れてくださる?喉が渇いたの」


「奥様!」



 ぴこんと耳が起ち、尻尾もゆらゆらと揺れ出す。

 嬉しいだすだ。



「ミーネお願いね」


「はい」



 ミーネは喜んで紅茶を淹れる。

 奥様が必要としてくださる。なんて、なんて、幸せなことだろう。

 ミーネは丁寧にお茶を淹れて、テーブルに置いた。


 +


 アリアは立っているのも辛いほど、疲れていた。

 昨夜の儀式から始まって、ずっと抱き合っていた。どんな仕組みか分からないが、破瓜の血は一滴も落ちていない。アリアがエスペランスの血を飲んだように、アリアの血の一滴も残さず、エスペランスが飲んだのだろう。どこから飲んだかは定かではないが……。

 着替えるために床に足を下ろされ、クラリと目眩を起こした。

 その時、ミーネの耳が垂れて、しょんぼりしていることに気付いた。いつもゆらゆら揺れている尻尾も足と足の間に入って、泣き出しそうな顔をしている。

 手伝いたかったのだと気付いた。



「ミーネお茶を淹れてくださる?喉が渇いたの」



 ぴこんと耳が起ち、尻尾もゆらゆらと動き出した。

 エスペランスが笑っている。アリアも微笑み返した。

 ワンピースは、エスペランスに着せてもらい、カウチに運ばれた。



「歩けるか?」



 アリアは首を左右に振った。

 今日は無理だ。

 とても疲れていて、今にも眠ってしまいそうだ。

 腰も、足も筋肉痛のように痛むし、受け入れた合間も、ズキズキ痛む。

 それでも日課の母の墓地に参りたい。



「お母様に会いに行きたいの」


「ああ、分かっている」


「食事も食べた方がいいだろう。これ以上痩せる場所はなさそうだが、身体を壊す」


「食事を食べたら、少し休ませてもらってもいいですか?」


「私も休むつもりだ」


「そう、よかったわ」



 紅茶を飲みながら、ふわりとあくびが出る。

 気を失わなかったのは奇跡だ。エスペランスが上手にコントロールしていたのだろうけれど。



「ミーネ、ガウンをベッドの上に出しておいてくれるか?」


「畏まりました」



 尻尾がゆらゆら揺れている。

 エスペランスはアリアを抱き上げると、温室に飛んだ。

 ヨハンに言って、一輪のアネモネの花を切ってきてもらった。ヨハンはエスペランスに花を渡した。アリアは、エスペランスから花を受け取ると、母の墓地に連れて来てもらった。



「わたしが供えてもいいの?」


「アリアがしなさい」


「ありがとう」



 アリアは花を供えると、母に「エスペランス様の妻になりました」と報告した。



「ありがとう。ランス様」



 エスペランスの元に歩いて行こうとすると、エスペランスが先に近づき、アリアを抱き上げた。

 抱き上げられると共に瞬間移動してダイニングに運ばれた。

 執事が気付く前に、アリアを椅子に座らせ、「食事を頼む」と声を上げる。



「畏まりました」



 厨房から声が返ってきた。

 モリーとメリーがテキパキとテーブルセットを初めて、グラスに水を入れて、もう一つのグラスにオレンジジュースを注ぐ。



「ありがとう」


「どういたしまして」



 モリーが深く頭を下げる。

 料理が並べられ、いただきますの祈りをして、エスペランスと共に食べ始める。



「これは何でしょうか?」


「海老だな。魔界にも海がある。魚貝類もよく料理に使われる」


「エビですか?わたし、卵とスープとパンしか食べてこなかったので、初めて食べます」



 厨房から海老を持ってきて見せてくれる。



「足が多いのね。食べるところは少なそうよ」


「この殻を剥いて食べます。新鮮なものは、生でも食べられます。甘い味がします」


「美味しそうに見えないのに、美味しいわ」



 シェフが海老を片付ける。

 温かいパンにたっぷりバターを付けて食べると、最後はさっぱりしたオレンジジュースを飲んだ。エスペランスは食後の紅茶を飲んでいる。アリアは紅茶も少し飲んで、ごちそうさまの祈りをした。



「もういいのか?」


「はい、お腹いっぱいです」


「では、部屋に戻るぞ」



 エスペランスはアリアを抱き上げると、寝室に飛んだ。

 ベッドの上にはガウンが二着並べて置かれていた。

 エスペランスがワンピースを脱がせてくれる。そのままガウンを身につけ、ベッドに横たえられた。



「もう寝てもいいぞ」


「はい、おやすみなさい」



 エスペランスも服を脱ぎ、ガウンを身につけ、ベッドに入ってきた。

 抱き寄せられて、アリアは目を閉じた。



「おやすみ、アリア」



 アリアはもう眠っていた。可愛い寝顔にキスをして、エスペランスも眠った。


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