第3章

結婚

第1話   愛撫

 目を覚ますと、見知らぬ場所で眠っていた。咄嗟に辺りを見渡して起き上がる。慌てるアリアの手を誰かに握られ、ビックリすると、寛いだ姿のエスペランスがアリアを見ていた。



「眠ってしまってごめんなさい」



 日も暮れていないのに、祈りを捧げていない聖女の身で昼寝などしたら、夕食は食べさせてもらえなくなるだろう。瞬間的に緊張したのに、気付いたのだろうエスペランス様は、「ここは魔界だ」と教えてくれる。


 ……そうだった。ここは魔界で、エスペランス様の宮殿であることを思いだし、ホッとする。


 聖女の監視役は、年老いたシスターだ。

 母が身籠もってから、監視が強くなり、男性と会う機会は完全になくなったと聞いた。

 昔は美しい聖女がいる教会に、男性が訪ねてくることは良くあったらしい。

 今は男子禁制で、母のような間違いが起きないように、教会の前には騎士が立ち、誰も寄りつけなくなっている。



「びっくりさせたな?」


「お昼寝なんてしていたら、叱られてしまうもの」


「ここではアリアを叱る者はいない」


「……はい」


「疲れておるのだろう。横になっておればいい」



 エスペランスは急いで座ったアリアを抱きしめて、再び横になった。

 唇を何度も啄まれ、アリアは初めての経験に胸がドキドキしてしまう。



「息を止めておったら、苦しいであろう」


「息を吸ってもいいのですか?」



 エスペランスはクスッと笑うと「呼吸を止めては駄目だ」と言いながら、アリアの唇を唇で食んだ。



「戯れるのも楽しいな」


「わたしはずっとドキドキしています」



 掌がアリアの輪郭を確かめている。

 優しく撫でられて、アリアは、そっとエスペランスに甘えるように身体を寄せた。



「嫌では、ないのだな?」


「ランス様は、とても優しく触れてくださいます」


「ずっと優しいばかりではないかもしれぬぞ?」


「木の棒で叩かれるのでしょうか?」


「叩かれていたのか?」


「お昼寝なんかしたら、罰を与えられます。棒で何度も叩かれて、夕食も抜かれます」


「それは酷いな。気付かなかった」


「一度だけ、されたことがあるの。それ以来、とても気をつけるようになったわ」



 教会に送られて、聖女になった後の疲れた身体で、掃除に出かけてうっかり寝てしまった。

 逃げ出したのだと捜索されて、教会の椅子に座って眠っていたところを発見された。

 その後、叱られて、両手が真っ赤に腫れるほど棒で手を叩かれて、食事をもらえなかった。

 あの時は、教会に入って初めて泣いた。

『この子は、あのふしだらな聖女の子だから、目を離さなさないようにしないと、母親と同じふしだらな事をしかねない』と、初めて母を貶されて辛かった。

 母は崇拝もされていたが、反対にふしだらな聖女と貶されていた。


(わたしを身籠もったから……)



「棒でも手でも、叩きはしない」


「やはりランス様はお優しい」



 洋服の上から、胸を撫でられる。

 それほど大きくもない膨らみを何度もなぞられて、頬が熱くなる。

 触れていた胸に、エスペランスはキスをする。



「くすぐったいわ」


「本番の練習だ」


「どんな本番でしょう?わたしは母親もいなかったし、10歳から教会にいたので、聖女以外の教育は何もされていませんの」


「なんと愛らしい」


「ランス様の妻になれるのでしょうか?」


「今宵は儀式を行おう」



 そう言うと、エスペランスは身体を起こし、アリアを抱き上げて膝に抱いた。


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