第4話   ダイニング

 執事の手でダイニングの扉を開けられると、広い部屋に立派なテーブルが置かれていた。

 ミーネと同じ制服を着た女性が2人並び、シェフの服を着た男性が5人いた。



「ようこそ奥様」


「お願いします」



 アリアは、急いで頭を下げた。

 使用人達は深く頭を下げた。

 2人の女性は美しい容姿をしていた。

 歳はあまり変わらないように見える。

 1人は、赤い髪を結い上げていた。瞳も赤い。もう1人は黄緑色の髪と瞳をしていた。



「女中はモリーとメリーだ。赤い髪の方がモリーだ」


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」



 2人は礼儀正しくお辞儀をした。



「シェフは今日は顔合わせで、皆出てきている。名前は追々でいいだろう。食べたい物があれば言うがいい」


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」



 髪の色は様々だ。青色や黄色、緑色、赤色に橙色だ。

 皆すらりと背が高く、美しい顔立ちをしている。



「さあ、食事を頼む」


「畏まりました」



 執事に席に案内された。

 エスペランス様と向かい合う。

 机が大きいので、ずいぶん離れた感じで落ちつかない。俯いて座っていると、



「カエムル、アリアの席を私の隣にしてくれ。離れすぎて落ち着かない」


「気付きませんで、申し訳ございません」



 カエムルは「奥様どうぞこちらに」とテーブルをくるりと回り、エスペランス様の横の席に案内してくれた。



「不安なのだろう」

「……はい」



 優しげな瞳に、わたしは正直に答えた。

 テーブルの下で手を繋がれて、わたしは急にドキドキしてきた。

 わたしが奥様で、ランス様の妻になるのね。

 10歳の時から教会にいたわたしは、妻になる心得を知らない。知る必要がなかったのだから・・・・・・。きちんと妻になれるかしら?


 料理が並びだした。

 テーブルに並べられた料理を見て、アリアは料理を運んでくれていたのは、エスペランス様だと気付いた。

 教会にいたときのように神に祈りを捧げていると、エスペランス様が微笑みながらアリアを見ていた。



「誰に祈っておるのだ?」


「神様とお料理を作ってくださった方と食材を作った方と食材になった食材にですわ」


「この国には神はいない。あちらの国の神の代わりは私だ。夫になる私に祈らなくてもいい。食事が冷めてしまう。どうしても祈りたいのならば、『いただきます』と言えばいい」


「いただきますですか?」


「それでは足りぬか?まだ神に祈りたければ止めはしないが・・・・・・」


「分かりましたわ。いただきます」


「それでいい」



 料理を口に入れると、懐かしい味がする。

 モリーがグラスにオレンジジュースを注いでくれた。



「懐かしい味がします。お料理をいつもありがとうございました」


「味を覚えておるのか?」


「当然です。こんなに美味しい料理など食べたことがありませんでしたもの」


「そうか、遠慮せずにたくさん食べなさい」


「はい」



 口に馴染んだ料理を食べ終えると、祈った。



「また神に祈ったのか?」


「いいえ、美味しい食事に感謝しました」


「そうか、その祈りなら許そう」



 執事が来て、椅子を引いてくれる。

 エスペランスがアリアの手を引いて、ダイニングから出て行く。

 女中が深く頭を下げている。

 アリアも頭を下げた。

 ランス様は神に等しいお方。この魔界で一番偉いお方。その方の妻になれるだろうか?

 どうしたら妻になれるだろうか?

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