第3話   昼食

 湯上がりの紅茶を飲んでいると、エスペランス様が部屋に戻ってきた。

 本当はすごく忙しい人なのだろう。



「綺麗にしてもらったね」


「ミーネがとても上手で、驚いたわ。わたしは、自分で結い上げられないもの」


「修行に出していた。一通りの事はできると思うぞ」



 ミーネが頬を染めてモジモジしている。

 褒められて、照れくさいのだろう。



「これから昼食だ。ダイニングに行ってみるか?」


「お連れ下さい」



 手を取られ、立ち上がると、ミーネは深く頭を下げていた。



「ミーネ行ってくるわね」


「はいですだ!」



 嬉しそうな声が返ってきた。



「とても可愛いわ」


「ミーネは私に恩返しをしたいと願い出てきた猫だった。カラスに襲われて、傷を負ったらしい」


「酷い傷でしたわ。わたしは聖女でしたけど、誰も認めてはくれない聖女でした。猫を助けられて、自分が聖女だときちんと自覚できたのですわ。ミーネのお陰で、自信が持てましたの」


「そうか、互いに必要だったのだろうな」


「……そうですね」



 階段を一階まで降りると、先ほどの執事が深く頭を下げた。



「カエムルでございます。この宮殿の執事をしております。どうぞお見知りおきを、奥様」


「よろしくお願いします。でも、まだ奥様ではないわ」

「近いうちに奥様になられるお方です。旦那様をどうぞお願いします」



 カエムルという執事は、漆黒の髪に、目は焦げ茶の色をしていた。シルバーの眼鏡をはめて、黒服を着ていた。

 目つきは鋭いが、言葉は優しげだ。

 主人を大切に想っているのだろう。



「カエムル、あまり急かせるな、アリアが戸惑う」


「申し訳ございません」



 カエムルはエスペランス様に注意され、深く頭を下げた。



「では、お嬢様と?」


「いや、奥様でいい。アリアはもう私の妻だ」


「ランス様、私はもう妻なのですか?」


「嫌なのか?」


「……いいえ」



 と、しか言えない。こんなに良くしてもらって、妻に迎えられるなら、母も許してくれるだろう。



「アリアを妻にしてください」



 エスペランス様は嬉しそうに微笑み、執事は安堵したように頷いた。

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