真夜中の飯テロにはご注意を!

ひなた華月

真夜中の飯テロにはご注意を!



 時刻は真夜中の12時。


 週末の金曜日から日付が代わった頃、クタクタの身体を引きずるように一人の女性がマンションの自室の扉を開けた。



「…………ただいまぁ。…………はぁ……」



 ため息と共に帰宅した彼女を、玄関の自動照明が出迎えてくれる。


 彼女の名前は土屋つちや聡子さとこ

 今年で社会人5年目を迎えるキャリアウーマンだ。


「もう……なんで金曜日にトラブルが起こるかなぁ……」


 もう一度盛大なため息をついた彼女は部屋の扉を開けると、スーツのジャケットをソファに放り投げ、そのまま自分も勢いよく身体をダイブさせる。

 大学を卒業し、社会人として順調にキャリアを積んでいった彼女だが、同時に仕事で起こる問題に対処しなければいけない立場にもなってしまった。


「でもでも~! 明日はついにお休みだぁ~♪」


 しかし、そんな彼女にもようやく、一時の休息が訪れる。

 それを実感していくと、疲労感も薄まっていき、気分もどんどんと高揚していく。


「よし、そろそろご飯食べよう」


 そして、しばらくソファの上で身体を伸ばしたところで、キッチンへと入っていく。

 いつもなら、こんな深夜まで仕事をした日はコンビニ弁当で済ませてしまうのだが、企業戦士としての長い戦いを終えた聡子さとこの真夜中の晩餐はそういうわけにはいかない。


 この5日間、働き続けた聡子さとこに必要なのは、欲望の開放だ。


「ふふ~ん、まずは、これを呑まないと始まらないよね!」


 そう言って、彼女は冷蔵庫から炭酸水を手に取り、棚からレモンサワーの素を取り出す。

 そして、グラスいっぱいに氷を入れ、それらを混ぜ合わせると、そのまま乾いた喉へと一気に流し込んだ。



「~~~~~~くはあああああっっ!! きくうぅぅっっ!!」



 労働を強いられ続けてきた彼女は、この究極の一杯を味わう為に自分は生まれてきたのだと実感する。

 しかし、聡子さとこの晩酌はこんなもので終わりはしない。

 しばらくは自作のレモンサワーを味わう彼女だったが、アルコールが程よく回ってきたところで電気ケトルのスイッチを入れてお湯を沸かす。


「ふふふふ……」


 そして、旧作版の猫型ロボットみたいな声で笑う彼女が棚から取り出したのは、買い溜めしておいたカップラーメンだ。


 但し、今日の聡子さとこは一味違う。



「今日は、思い切って2個いっちゃうぞぉ」



 そういって取り出された2つのカップラーメンは、シーフード味と激辛味の2種類だった。

 いくら一人暮らしに長いとはいえ、夜中にカップラーメンを2個も食べるということが、どれだけの暴挙であるのかは周知の事実だろう。無論、普段の聡子さとこならば己の欲を制して我慢をするところである。


 しかし、今の彼女は暴走モード。止める術はない。

 聡子は躊躇することもなく、カップラーメンのかやくを空け、準備ができたところでお湯を注ぐ。

 しかも、2つとも一気にお湯を入れてしまったことからも分かる通り、もう彼女には仕事で見せるような冷静な判断を下すことは出来ずにいた。


「ふんふふんふふ~ん♪」


 そして、レモンサワーのグラスとお湯の入ったカップラーメンをリビングにある机まで持っていくと、テレビを点けて深夜のバラエティ番組を視聴する。


「あはははははっっ!」


 どうやら、たまたま点けたテレビの内容が聡子さとこのツボに嵌ったみたいで、彼女は大声で笑い声を上げ、全力で番組を楽しんでいた。




 そして、5分後。


「おっ、できたできた!」


 完成した2つのカップラーメンを交互に見ながら、思案顔を浮かべる聡子さとこ


「よし! やっぱり最初はガツンといきますか!」


 そして、彼女がファーストテイスティングに選んだのは、激辛系ラーメンのほうだった。

 ずるるるるっ! と、勢いよく麺を啜った聡子さとこ


「んんんんんんっ! 辛い~~!」


 辛さと旨さが絶妙な配分に舌鼓を打つ聡子さとこ


「おっと、こっちも忘れちゃいけないよね!」


 そして、その勢いのまま、シーフード味のラーメンも口にする。


「ふわあああ、こっちもおいしいぃ……!」


 やはり、こちらも企業努力が生んだ至高の一品に大満足の笑みを浮かべる。

 こうして、しばらくは激辛とマイルドの味を交互に味わい、酒の余韻に浸る聡子さとこだったが……。


「……あっ、もう呑んじゃった」


 お酒が切れていることに気付いた聡子さとこは、もう一度レモンサワーを作るためにキッチンへと向かったのだが、彼女が手に持って帰ってきたものは、グラスに入ったレモンサワーのおわかりだけじゃなかった。


「やっぱ、味変もやっとかないとね~♪」


 聡子さとこが持ってきたものは、冷蔵庫に入っていた納豆とマヨネーズだった。

 そして……なんと彼女は激辛系ラーメンに納豆を、シーフード味のラーメンにはたっぷりのマヨネーズをトッピングする。


「お母さんにはよく怒られてたけど、これが最高に美味しんだよねぇ!!」


 そう言いながら、聡子さとこは残りのラーメンを一気に口の中へと運ぶ。

 激辛のラーメンは、納豆が加わったことで辛さが控えられるものの、スープと発酵食品との相性が素晴らしく、また違った味わいを楽しむことができる。

 そして、マヨネーズを加えたシーフード味は、さらに口当たりがマイルドになり、お酒のお供として最高の一品へと変貌する。

 そんな2つのオリジナルメニューに満足した聡子さとこは、レモンサワーを呑みながら、心からの声を口にする。



「あ~! 本当に最高!! 休日万歳!!」



 こうして、聡子さとこの至高の時間はまだまだ続くのだった。


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