第3話お兄様との出会い(1)


 教会に着くとそこは既に魔力測定待ちらしき親子が列を成していた。


「あれ。何かいつもより人が多くないか」

「そうねぇ」


 魔力測定は順次行われているのでそれほど混むことはない。

 好奇心旺盛なお父さんが最後尾の親子に挨拶をしてから尋ねる。


「教会関係者の様子から、みんなが貴族様の登壇の日じゃないかって言っているよ」


 去年就学舎で教わった話によると、魔力測定は順次行われているがいつも貴族が立ち会うわけではなく、測定所によって教会関係者や魔術師協会から派遣された方々が行う。

 しかし稀に未来の領主たる貴族の子息が測定前にお言葉をくださることがあるらしい。


「そういう日に魔力測定を受けた子の中で魔力保持者が何人か現れたらしいぞ! うちの子もそうかも知れんな。がはは」

「そうかも知れませんな。わはは」


 ぶっちゃけた話、庶民の子供の中で魔力測定で本当に魔力が測定されただなんて今まで聞いたことが無い。

 みんな魔力測定の日は帰りにアメをくれる日くらいにしか思っていない。たぶん。



 ん?

 レイと繋いだ手が少し痛くて隣を見ると、びっくりするくらい真剣な目をしていた。


「あ。ごめん」


 私と繋いだ手を強く握り過ぎたと気付いたらしいレイは慌てて手を離した。


「どうかしたの」

「いや。何でもないよ」



 教会に入り、祈りの間に行く前に保護者たちは別室に通された。

 身内は性質が近いため近くに居ると測定石が強く反応する恐れがあるかららしい。


「いいかい。今日は特別だ。伯爵家のご子息がお言葉をくださるそうだ。こういった場合の所作は修学舎で習っているね?」

「はい。あのでも、何か間違ったら怒られたりしませんか?」


 修学舎で隣のクラスのリーダー的存在のトムが手を挙げて言った。

 さすがトム。たぶんみんなが聞きたいことを聞いてくれてありがとう。


「ああ、大丈夫だよ。君たちはこちらに。ご子息はあちらの壇上にて御挨拶された後すぐに貴賓室に行かれて他の御予定に取り掛かられるからね。その間おとなしくしていれば、問題無いよ」

「それに、私たちも近くに控えているからね」


 案内してくれている教会職員たちの中に見慣れた人もいる。私も周囲の子も明らかにほっとした表情になった。


「おや、君。大丈夫かね」


 レイは一人だけ少しうつむいて胸元をぎゅっと握っていた。

 黒髪と対照的な白い肌がいつもより白く見える。


「レイ大丈夫? 今日は帰らせてもらってまた今度一緒に来る?」

「そうしたらどうだい。期間中に測定すればいいんだからね」

「大丈夫です」


 レイはなんてことなさそうに指定された場所へ向かった。

 レイがこうなったら予定は済ませないと気が済まない状態ということ。

 職員の人も帰っても良いって言っているのに。頑固なんだから。


 でも……。

 もしもシャイなレイが沢山の人が居るところだから緊張で体調が悪くなったのではなく、他の要因があるのならしばらくここにいた方がもしもの時に教会の職員に対処してもらえるかもしれない。


 レイの体調が悪くなったら私が隣で支えられるようになるべくぴったりくっついていよう。


「おまえらくっつきすぎじゃね」

「ちょっとジェス、やめなさいよ」


 レイは周囲のからかいも擁護も気にならないくらい元気なふりに集中しているのか無反応。

 しめしめ。このままこっそり横に待機していよう。




 それからしばらくすると、教会職員とは服装が明らかに違う大人が入ってきた。


「これから伯爵家御子息、ライナス・マクレーン様がお言葉をくださる。静聴されたし」

「はい」


 緊張してしまって返事はほとんど声になっていなかったが他の子も似たようなもので、近くに居る職員も見慣れた様子だったので大丈夫なはず。


 エスコート目的ではない時では珍しくレイが私の手を握ってきた。

 今声を発するとマナー違反になってしまうと困るのでぎゅっと強く手を握りかえす。

 くっついているので手を繋いでいるようには見えないはずだし、何か言われたらまず非礼を謝ってから、教会職員ずてに事情を伝えてもらおう。




 登壇した人は想像より私たちと近い年齢に見えた。しかし着ている服も所作も雰囲気も何もかもが違って見えた。


 堂々と歩く姿。精緻で豪奢な刺繍が施された服。胸元には見たことが無い宝石が煌めいている。

 その瞳は赤。髪は金糸に負けないくらいステンドグラスから降り注ぐ日の光で煌めいている。


「はじめまして。ライナス・マクレーンと申します」


 修学舎で習った所作で礼をとっていると、ふと視線を感じ目線を上げてしまった。

 視線の先、壇上にはライナス・マクレーン様しかいない。その人と目が合ってしまった。




 その瞬間、不思議な感覚がした。なんだかとても懐かしいような……。







 

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