第2話魔力測定の日


「エリカ、準備できたか」

「はーい」


 あれから二年後。私たちは十歳になった。

 今日は魔力測定の日だ。


 この国では貴族平民を問わず十歳までに魔力測定を行うことになっている。

 事前に来ていた通知の期間に教会や専用の測定所へ保護者と共に出向くのだ。


 同じ年のレイは近所に住んでいるので通知された期間も同じだった。両親の仲も良いので一緒に行くことになった。

 親と子でそれぞれ話しながら歩く。


 就学舎で知り合った豪商の娘のリンジーの兄は長子で跡取りのため、大金をはたいて貴族の長子以外がちらほら通う私立学校へ通っているらしい。


 リンジーが兄づてに教えてくれた話によると、貴族の子は普通十歳よりずっと前、三~六歳までに一度私費で魔力測定を済ませるらしい。

 それから十歳で国が指定した既定の魔力測定を行うのが慣例なのだそう。


「なぜかしら」

「さあ。もしかしたら、色々と準備するためかも」

「準備って?」


 レイは何やら慎重な面持ちになると周囲や後ろにいる親たちを見やった。

 親たちは私たちを視界に入れつつ話が弾んでいる様子だ。


 レイは私の手をぎゅっと強く握ると小声で囁いた。


「他で言うなよ?」

 町の喧騒でレイの声は私にしか聞こえていないようだ。

「うんうん。なになに」


 大切な話みたいだからもっと周囲に聞こえないようにしなくっちゃ! 

 もうちょっとくっつかなきゃ。


 私がぶつかった反動なのかレイはちょっぴりのけぞった後、気を取り直すようにゴホンと咳き込んだ。ごめん。


「絶対だぞ……。貴族の子が全員魔力持ちで生まれてくると思うか?」

「違うの?」

「いやあくまで推測だけど。例えばだけど、エリカの瞳の色はピンク色だけど、おじさんとおばさんの瞳の色は青色だろ?」

「うん。私の瞳の色はひいおばあちゃんの瞳の色と同じだって」


 ひいおばあちゃんの髪の色は金髪で、私の髪の色はピンクっぽい金髪だけど、他の家族はみんなブラウン系で瞳の色は青系だ。

 レイの髪の色は黒くて瞳の色も黒。おじいちゃんと同じらしい。

 私たち、どちらもこの辺ではあまり見ない髪の色や瞳の色をしているかも。


「そう。近所の人たちや友達を見たってそういう事、よくあるだろ。必ずしも両親の特徴をそのまま分かり易く持って生まれて来るわけじゃない」


 就学舎や教会で聞いた話では貴族はみんな魔力持ちで、ほとんど魔力を持たない私たちを導いてくださる存在らしい。


「貴族はみんな魔力持ちなんじゃないの?」

「そうだといいけれど……」


 レイは真剣な表情で顔を私の耳に近づけて、さっきまでよりも小さな声で言う。


「魔力があるかもしれないことは、できるだけ隠せよ」


 なーんだ。そんなことを心配してくれていたんだ。

 むかーし、一回だけもしかして……。みたいなことが有ったっきりなのに。

 今さら測定されないんじゃないかな。


 だけどその時もレイは誰にも言うなって言っていたし、お母さんもレイの言うこと聞きなさいってよく言うし。

 教会にもうすぐ着きそう。内緒話をずっとしているわけにもいかない。


「はーい」

「約束だぞ」


 うんうん。私はみんなに聞こえないように頷いた。




 実際、何事も無ければこの日、私の魔力が問題になることは無かったんじゃないかな。

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