素直なヒーローとツンデレ異世界人【エピソード9】

双瀬桔梗

真夜中の侵略者

「誰だ、お前ら」

 スナオレッドに変身したあかみね ごうは、正面に立つ二人の人物に問いかける。二人共、黒いフードを目深に被り、はっきり顔は見えないが、体格的に男性だろう。

 豪の隣には、異世界人『ツン・デーレいちぞく』のおさ、エベレスト皇帝がいて、切れ長の目で男性二人を睨みつけている。

「我らは“レークステル”。この世界に、“復讐”しにきた。今日は世界を守るヒーローさんに一言、挨拶をと思ってな」

「復讐ってどういうことだよ?」

「ふふっ……いずれ分かる事だよ。ではまた近い内に会おう」

 左側に立つ男性はそれだけ言うと、豪達に背を向ける。


「おい! 待て! ……って……夢、か……」

 勢いよく上体を起こし、周りを見渡した豪は、夢を見ていたのだと、すぐに理解する。赤茶髪をガシガシかいてから、スマホで時間を確認すると、深夜1時を過ぎていた。


 水でも飲もう。

 そう思い、立ち上がった瞬間、赤い石のついたブレスレットが警告音を鳴らす。

 豪がブレスレットの石に触れると、そこから司令官の声が聞こえてくる。

「スナオズ及び、ツン・デーレいちぞくに告ぐ。新たな異世界人の生体反応を察知した。五ヶ所に散らばっているため、二人一組で現地に向かってくれ。まず、豪とエベレストは──」

 豪は指示を聞きながら、赤と白のスナオズの制服にサッと着替え、部屋を出る。


「こんな真夜中に迷惑な侵略者やね」

「全くですよ……」

 豪とほぼ同タイミングで、あお こうろうゆきしろ はやも自室から出てきた。

 幸路郎はまだ起きていたのか、意識がはっきりしているのに対し、隼大は眠そうな目を擦っている。白一色のジャケットのボタンを掛け違えていたりと、制服をきちんと着れていない。

 彼らはいつ侵略者が来ても連携が取れるように、『オネスト』が管理するマンションの一室で、同居中だ。ちなみに、かわ ミナと しえりは、女の子二人で一緒に住んでいる。


「とりあえず、途中まで三人で」

「隼大君! この私がァ! 迎えに来てやったぞォ!!」

 迷惑な大声が玄関のドアを突き抜け、幸路郎の言葉を遮った。声の主が誰なのか、すぐに分かった隼大は、げんなりした顔でドアを開ける。

「隼大君!!」

 マンションの廊下から空を見上げれば、目をキラキラさせたリベアティ博士と、彼を必死に止めている義弟タシターニ騎士が、浮いているのが見えた。

「スナオチェンジ……」

「隼大君、迎えにき、フガフガ」

 不機嫌な声で変身した隼大は飛び上がり、手のひらでリベアティの口を塞ぐ。

「リベさん、夜は静かに、な?」

 隼大の言葉に、リベアティはコクンと頷く。


 相変わらずアイツら仲良いなー。

 そんなことを呑気に考えている豪に、「おい」と誰かが声をかける。豪が視線を移すと、いつの間にか無表情のエベレスト皇帝が、隣に立っていた。

「エベレストもいたのか」

「……行くぞ、紅峰 豪」

 エベレストは豪を一瞥すると、空中へ向かって飛び上がる。

「おう! スナオチェンジ! 幸路郎、隼大また後でな」

「うん、またあとで。皇帝のニィサン、豪クンをよろしくお願いします」

ごー、気をつけてな」

 変身した豪は、幸路郎と隼大の声を背に、エベレストの後を追う。




 豪とエベレストがいつもの広場の上空に着くと、黒いフードを被った二人の男性が立っていた。それを目にした豪は、“あの二人、どこかで見たような気がする”と思いながら、エベレストと同時に地上へ降りる。

「誰だ、お前ら」

 豪は目の前にいる、男性二人に問いかける。

「我らは『レークステル』。この世界に、“復讐”しにきた。今日は世界を守るヒーローさんに一言、挨拶をと思ってな」

「復讐ってどういうことだよ?」

 その言葉を投げかけたところで、あ……と気がつく。夢で見た、状況と同じだと。

「ふふっ……いずれ、分かる事だよ。ではまた、近い内に会おう」

 左側にいる男性はそれだけ言うと、豪とエベレストに背を向ける。

「おい! 待て!」

 豪は慌てて声をかけるが、男達はフワッと煙のように消えてしまった。




「分かった。そんじゃ、また明日」

 他のメンバーも、『レークステル』と名乗る人物と遭遇したが、特に何もしかけてこなかったらしい。それゆえ、『オネスト』に集まるのは、夜が明けてからにしようという話になった。


「よし、帰るか。エベレストもまた明日な」

 通信を切った豪は、エベレストに向き直る。

「送っていこう」

「え、いや、一人でも大丈夫だせ?」

高校生子供が一人で夜道を歩くのは危険だ」

 エベレストは静かに首を振り、“送る”と強く主張している。

「分かった。だったら、歩こうぜ。……実は、聞いてほしい話もあるしな」

 豪はニカッと笑い、エベレストの隣を歩く。空をチラリと見上げれば、綺麗な星と月が輝いている。

「話とは、何だ?」

 エベレストの問いかけに、「信じられない話かもしれねぇけど……」と、豪は前置きする。

「さっきの『レークステル』ってヤツら、夢でも見たんだよ。正夢ってやつなんだろうけど……まんま夢の通りになって、正直、驚いた」

「ほう……」

「しかも、今日だけじゃねーんだ。『シン・リャーク』が侵略してくることも、アンタらがやってくることも、あらかじめ夢で見てたから知ってた」

「それは……不思議な話だな」

「そーなんだよ……ま、これをエベレストに話したところでって、思われるかもだけどさ……あまりにも偶然が重なり過ぎてるから、どうしても誰かに聞いてほしかったんだよ」

 豪は少々照れくさそうに、エベレストの顔をじっと見る。

「……何故、スナオズではなく、我にその話を?」

 エベレストは首を傾げ、怪訝そうにあかい瞳を、豪に向ける。

 豪は一瞬、キョトンとした後、悪戯っ子のように、ニッと笑う。

「エベレストも俺のダチだろ?」

 エベレストは目を大きく見開いたかと思えば、すぐにプイッと豪から視線を逸らす。

「……別に、我は友など……」

「素直じゃねーなぁ。もうアンタだけだぞ。この世界の誰にも心を開いてねぇのは」

 豪は呆れながら、エベレストの顔を見ようとする。しかし、エベレストに全力で拒まれ、むぅと顔をしかめる。

「まぁ別に、無理にとは言わねぇけど……気が向いたら、ダチになってくれよ。なんか分かんねぇけど、俺はエベレストのこと、結構、気に入ってるからさ」

「考えておく……」

 エベレストの言葉に、豪は「おう!」と元気よく返事をする。


 そうこうしている内に、マンションの前まで着いた。すると、エベレストは何も言わず、足早にその場を去ろうとする。

「あ、ちょっと待ってくれ」

 豪に引き止められ、エベレストは立ち止まる。

 マンションの近くにある自販機で飲み物を買うと、豪はそれをエベレストに向かって、優しく投げた。

「送ってくれてありがとな。良かったら飲んでくれ。確か、そのメーカーのココア、好きだろ?」

「何故それを……」

 エベレストの手の中にあるのは、大手飲料メーカー『なお丸』のココアだ。彼はこの缶飲料をいたく気に入り、よく飲んでいるのだが、この話を豪にしたことはない。

「ん? 確かになんで知ってんだろ、俺……まぁ、どっかでアンタが飲んでるとこを、見たんだと思うぜ!」

 豪は、細かいことは気にするな! と言わんばかりに、親指をグッと立てる。それを見て、エベレストは何だか可笑しくなり、フッ……と笑う。

「有難く頂戴する」

「おう。気をつけて帰れよ」

「あぁ」

 豪はエベレストに手を振り、彼の背中が見えなくなると、マンションに入っていった。




 次の日、エベレストは「昨日の礼だ」と言って、豪が大好きなアセロラジュースを、に渡した。

「お礼のお礼を、渡されてしまった……でも、ありがとな」

「礼には及ばない」

 豪はニコニコ嬉しそうに、エベレストからアセロラジュースを受け取る。

 受け取ってもらえたことに内心、安堵したエベレストは、ほんの少しだけ微笑んだ。


 初めて見る、豪とエベレストの和やかなやり取りに、他の面々はビックリしながらも、にこやかに二人を眺めた。




 その日、スナオズとツン・デーレ達は、『レークステル』についての会議を行った。

 そして、スナオズ達にはリベアティ博士が作った新しい変身アイテムを、ツン・デーレいちぞくには、新調した武器が配られた。

 それぞれの変身アイテムと武器には、各々のイメージカラーの石がはめ込まれていて、その中には時計のような模様が描かれている。


 ツン・デーレの戦闘員達は、第二部隊以降のメンバーとして特訓も受けており、戦力になりつつあった。

 新たな侵略者『レークステル』が何者なのか、全容は分からないが、今回も何とか太刀打ちできるだろう。

 豪は勿論、他のメンバーも、そう考えていた。


 まさか、あんなことになるなんて……少しも思っていなかった。


【紅峰 豪 編 完】

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