第6話 そして今
「いやー久しぶりだね裕くん!見ない間に髪伸びたんじゃない?」
そういったここ数か月を経て、今僕は生きているのだけど・・・
「あ、お腹すいてるから何か頼んでいいかな?えーっと何にしようかなぁ」
そして結果的に、その都市伝説は立証されたのだけど・・・
「裕くんは何がいい?って裕くん、なんでそんな気難しい顔してるの」
僕は、目の前の世奈さんに違和感を抱かざるを得なかった。
「いや・・・そのなんてゆうか・・・めっちゃ変わったなって」
「んー?変わったって何がー?あ、えーっと、スペシャルハンバーグステーキセットとデラックスパフェお願いします!」
今目の前にいる世奈さんが以前の世奈さんとは明らかに性格が違っているのだ。
以前の、僕が知っている世奈さんはもっとおしとやかで、おとなしい性格で、ファミレスに来ても呪文みたいに長いメニューを注文するような人ではなかった。てかなんだスペシャルハンバーグステーキセットって、小学生が考えたのか。
「で、何が変わったって?」
今の世奈さんは何というかとても活発で明るいのだ。眩しい笑顔をこれでもかと僕に見せてくれる。いや、それも可愛くていいんだけれども。いいんだけどね。
「聞いていいかな、世奈さん」
とりあえず僕は状況確認から始めることにした。
「質問?うん、何でも聞いてくれていいよっ」
「まず最初、世奈さんは自分がその・・・どうなったか分かってる?」
これがまず初めに明らかにするべき質問。世奈さんが『一度自分が死んだこと』を知っているか。ここで世奈さんが、自分が死んだことを知らないとなると都市伝説とも矛盾してしまうし、そもそもそっくりなだけの別人だって可能性も出てくる。いや、仮に別人だとしたらそれはそれで都市伝説になるくらい怖い事なんだけども。
「うん、私死んじゃったんだよね」
ざわっ、と一瞬ファミレス内がざわついたけれど気にしないことにしよう。うん、なんだか周りからの視線が凄いけどキニシナイキニシナイ。
「えっと、やっぱりそれは分かってるんだ・・・そして案外あっさり」
「まあ、自分のことだしね~」
なんだかあっさりしすぎて、現実味が無くなってきた。これは夢なのかもしれない。
「それで、その、どうやってその生き返ったのかとかも覚えてる?」
「うーん、それは覚えてないかなー。気づいたら神社の境内に立ってて目の前に裕くんがいたって感じ」
なるほど、死後の世界があるかどうかは分からないらしい。それを知ったところでどうにかするつもりはないが、やはり生者として気になるところではあった。閻魔様とか、やっぱりいるんだろうか。僕はきっと地獄行きだろうな。
「にしてもすごいね!まさか裕くんが私を生きかえらせてくれるなんて!『奇跡』ってホントにあるんだね、私感動しちゃった」
世奈さんが興奮した様子で話を続ける。あ、何だかしっぽ振ってる小型犬みたいで可愛い。
「いや~やっぱり愛の力なのかな?照れるな~」
「世奈さん」
僕はそんな世奈さんの話を遮った。彼女にどうしても言いたいことがあったから。
「ん?」
世奈さんは首を少しだけ傾げて不思議そうにこちらを見ている。ああもう、いちいち可愛いなこの美少女め。プロマイドとかにしたら売れるだろうか、いや変なオタクとかに目をつけられたら困る。やめておこう。そう、世奈さんの事を盲目的に可愛い可愛いっていう変なやつとか。
「何かしたいことってあるかな?その、せっかくだしどこか行きたいところとか」
彼女がいなくなって彩りをなくした世界で、もう一度彼女に会えた。
この『奇跡』を手放したくない、世奈さんと思い出をもっともっと増やしたい。
僕の頭の中は、その思いで満たされていて他に何も考えられなかった。
「行きたいところか~、う~んいっぱいあるなぁ。迷っちゃうな~」
世奈さんは考え込むように、顎に手を当てた。
「いっぱい迷ってよ、いっぱい考えようよ、僕はどこにだって行くよ」
「・・・ふふ、なんか裕くんの今のセリフなんかドラマの俳優っぽい」
「えっ、そうかな・・・うわ、なんか恥ずかしくなってきた・・・」
何だか、以前とは違う雰囲気の会話だけれど、僕はこの空間に幸せを感じていた。
世奈さんと、またこうやって笑い合えるだけで幸せで満たされていくのが分かった。
「じゃあまずは調べてみよう、そうだなやっぱり・・・」
「ちょっとそこのお二方」
僕がスマホを取り出したところで、おばあちゃんが僕たちに声をかけてきた。
「・・・?」
「先ほどから、輪廻転生についてお話のようで・・・実は神様は偏りなくすべてを愛しておりまして・・・」
僕は世奈さんの手を引いて全力で逃げ出した。
やっぱり公共の場でああいう手の話をするのは色々とまずいようだ。
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世奈さんと僕は、とっくに暗くなった夜道を二人で歩いていた。
「さっきのおばあちゃんの話、面白そうだったのに。なんで逃げちゃうの」
「そりゃあ、怖いからだよ!」
正直、ああゆう手の話は苦手である。昔、黒スーツのおじさんに分厚い本を渡されて・・・いや思い出すのはやめておこう。
「それで、世奈さんはいつまでついてくるの?帰り道こっちだったっけ?」
「裕くん、死んだ人間がいきなり家に現れたらどうする?」
「ですよね、僕が軽率でしたごめんなさい」
僕以外の、世奈さんの知人が今の世奈さんを見るとどうなるのか、それは火を見るよりも明らかだ。明日のネットニュースは騒ぎに騒ぐだろう。題名は『まさかの死者復活!?これなら異世界転生も夢じゃない!』みたいな。
「というわけで、これからは裕くんの家に泊まるから。よろしくね」
「まあ、それしかないよね・・・まあ僕は全然かまわないけど・・・いや構うわ」
女の子と同じ屋根の下で二人暮らしをするという、精神的負担を加味していなかった。いやいやまずい、いろんな意味でそれはまずい。僕は並みのラブコメ主人公のような聖人さも鈍感さも兼ね備えていない、ただの一般大学生。そんな僕が女の子と同棲した日には・・・あー、見えた。独房にぶち込まれる自分が見えたわー。
「じゃあ、とりあえず私の日用品買いに行ってもいい?」
そんな僕の心の懊悩は世奈さんには届いていないようで、遠足前の小学生のようにワクワクしている様子だ。
「・・・うん、そうしようか。近くに大きいスーパーあるし」
仕方ない、心を菩薩かガンジーにして頑張るか。バンジーする前みたいな心持ちなんだけどね、今。
「あ、下着は自分で選ぶからね」
「全部世奈さんが選んでくれて構わないよ!?」
心を菩薩にすると誓った瞬間にこれである。本当に大丈夫なのだろうか。
閻魔様に、死んだあと怒られないようにだけしよう。
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