私を吸う子供

あばら🦴

これは私が幼い頃にあった話です。

 私は小学二年生の時から時々おかしな夢を見ることがありました。

 その夢とは真っ暗な空間に仰向けに横たわる私に、くっきり見える色白の肌をした少年が、私の腹に突き刺さっている異様に長いストローから何かを吸い出している夢でした。

 それらは真っ暗な中で不気味にくっきり見えていたのですが、私と少年とストローしかない空間内だったのでそこには恐怖を感じませんでした。


 その夢を見る日は大抵真夜中の三時くらいに目を覚ましてしまいます。

 当時は───自分で言うのもなんですが───いたいけで純粋な女の子だったので、すぐさま大泣きしながら親の元へ行っては親を起こして困らせていました。


 その夢は中学生の頃まで続いていました。はい。夢の中の私は成長に合わせて大きくなっていきますが少年はいつ見ても同じ体格でした。

 何度も同じ夢を見ること自体は怖かったのですが、何度か同じ夢を見ているうちに起きたら何の影響も無いことが分かったので、徐々に恐怖にも慣れてきて親に泣きつかなくなりました。


 これを聞いている人の中には何人か違和感を持ったでしょう。『続いていました』とはどういうことか、と。

 そうなのです、この夢はとある日にぱったりと見なくなったのです。

 いつもその夢を見る時は吸われている一場面だったり、はたまた吸われていた夢の感覚だけで吸われているシーンは思い出せなかったりと記憶が曖昧になるのですが、最後のあの夢は今でも思い出せるほど頭に残る記憶は鮮明でした。


 中学二年生のある日。私は例のあの夢を見ました。

 いつも通りへその上に刺さるストローから何かを吸い出している少年が見えています。

 私はいつもだったら怖くて怖くて余計な事をしないようにじっとしていました。


 しかしこの日は違いました。恐怖に慣れたのもあって、無遠慮に私から何かを吸っている少年に腹が立つ余裕があったのです。

 ふと、このストローをどかして払い除けたらどうなるか、と思ってしまいました。思ってしまったんです。

 てっきり金縛りのように動かないと思っていた腕はあっさり動かせました。腕をストローへと向かわせ、指で細いストローの筒を握りました。そのストローを引っこ抜くのに力は要りませんでした。

 少年はこの瞬間に初めて私の動きに気づいたようで、少年は驚いたのかストローから口を離しました。


 それで、その…………ああ、すみません。

 私は思わずストローから指を離しました。少年の顔がこちらに向いて、今までぼんやりとしか見えていなかった顔が初めてはっきり見えたからです。

 生気が全く無いような青白い肌の顔には鼻は無く、目玉が入っていない真っ黒な瞳孔はまっすぐ私を見つめています。少しだけ開いた口からは少年の歯が激しく噛み合わせているのが一瞬見えました。


 少年は顔の向きを保ったまま、見ていないはずなのに私の腹の上に落ちたストローを正確に拾って持ちました。

 長い長いストローを両手で持って、突き刺す方を私のおでこの前にまで動かしました。

 そしてそのままおでこにグリグリとストローを突き刺してきます。まるで皮膚の先、頭蓋骨の先を目指している印象を受けました。

 貫通はしませんでしたが、その押し付けられる痛みは夢の中であるはずなのに鮮明でした。

 今思えば、腕を動かせると知っていたのに何故抵抗する考えが浮かばなかったのかが不思議です。


 ぶっつりとその夢から覚めたのはいつもより早く真夜中の一時半でした。眠気はありましたが、眠る事が怖くなってて一睡もできませんでした。

 それから一週間ほどは不安で仕方なくて睡眠がままならなかったのを覚えています。


 しかし私の不安とは裏腹に、それ以来現在に至るまで同じ夢を見なくなりました。

 あの夢は本当になんだったのでしょうか。ただ、今日までずっと、朝起きた時に押し付けられた部分の額が痛むのです。

 きっと彼はまだ諦めていないのでしょうね。

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私を吸う子供 あばら🦴 @boroborou

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