第65話


 片付けが終わり、リビングに皆が集まったので今日の予定を伝えることに。


「今日はミア達の着るものを買いに行こうと思う。俺だけだと服のサイズが分からないからミア達はついてきてくれ。アレスも…」


 俺がそこまで話すと玄関のドアをノックする音が聞こえた。誰だ?


「お客さんでしょうか…?」


 アレスが玄関の方を見ながらそう言った。


「私、出てきましょうか?」


「いや、俺が対応する。アリアメルはニナ達を頼む」


 俺は「おきゃくしゃん!」と言いながら玄関へ走り出そうとしたニナを抱き上げてアリアメルへ渡す。

 ステラとラッツは既にイスカとフィオが確保済みである。流石だ。


「はい、わかりました。ほーらニナ大人しくして」


 ぱたぱたと手足を動かすニナをアリアメルが優しく抱っこする。


「少し良い子で待っててくれ」


 俺が頭を撫でながらそう言うと三人共大人しくなる。うんうん。


 玄関まで移動しながら剣を何時でも抜けるように準備する。これに関しては昔からの癖で未だに抜けない。

 このバストークへ来る前の話だが、ドアを開けた瞬間に襲われたこともあるからな。娘の仇を討ってくれという依頼をこなしたら、その残党が仲間の仇を討ちにきたという。


「誰だ?」


「朝早くからすいません。ギルド職員のサシャです」


「ん、ああ」


 ドアの向こうから聞こえたのはサシャの声だった。…一体何の用だろうか。

 俺は剣の柄から手を離してドアを開けた。


「おはようございますグレイさん。いきなりお邪魔してすいません」


 そう言って頭を下げるサシャ。


「いや、大丈夫だ。それより用件はなんだ?」


 態々ギルドの職員が家に訪ねてくるなんて正直嫌な予感しかしないが…。


「タラレスさんがグレイさんを呼んできて欲しいと」


 メガネを直しながらそう言うサシャ。


「…タラレスか。一体、俺のような一冒険者に何の用だ」


 タラレスはバストークの冒険者ギルドのマスターの名だ。小柄で人の良さそうな見た目だがあれで元Aランクの冒険者だ。

 ギルドマスターを元冒険者がやることは別に珍しいことではない。血の気の多い冒険者を管理するには、本人にも相応の実力が要る。


 そしてやはり何か面倒事なのだろう。


「…ここ数日、近隣の町や村の子供達が行方不明になる事件が発生しています。うちのギルドでも行方不明になった子供達の親御さんから捜索の依頼も何件か受けました」


「……」


 子供が行方不明、人間による誘拐か、そういった性質をもつ魔物か。どちらにせよ胸糞の悪い話だ。


 そういう話なら…とも思うが、今日はこれからミア達の服を買いに行くつもりだったからな。


「どうでしょう? 当然断ることもできますが…」


 いつもの様に表情を変えず、淡々と、あくまでも事務的にそう話すサシャ。


「そうだな…」


「グレイさん」


 腕を組んで悩んでいると、後ろから俺を呼ぶ声がした。振り返るとそこには真剣な顔をしたアレスが立っていた。


「ごめんなさい…その、お話を聞いてしまいました。依頼…なんですよね?」


「ああ、だがお前には…」


「その依頼、受けてはくれませんか…?」


 関係ない…と言うべきか一瞬悩んでいる間にアレスが更に口を開く。


「何故だ?」


 あの大人しいアレスがこんなことを言うのには何か理由があるのだろう。だが被害者が子供だというならうちの子供達の身も危ない。


「大切な人と無理矢理引き離されるのは…とても辛いんです。もし、誰かの私利私欲の為にそんな思いをする人達がいるなら助けてあげたいんです。…でも、今の僕じゃ何もできません」


 でも…とアレスは続ける。


「グレイさんならきっと、そんな人達を助けれると思うんです。僕自身やミア達を助けてもらって…その上こんなことまでお願いするなんて勝手なことを言っていることはわかってます」


 そう言って頭を深く下げるアレス。横を向けばサシャも同じように頭を下げていた。


「アレス」


「はい…」


「まだ受けるかどうかはわからん。だが詳しい話をこれから聞いてくる。買い物はその後だ、それまで皆のことを頼む」


 驚いた顔で頭を上げるアレス。そして表情を引き締めて「はいっ」と返事をした。


 ――――――――――


 キャラクター紹介がVer②になっています。

 フィオ、ニナ、ステラを追加。

 各キャラクターの項目も少しづつ増えていく予定です。


 後グレイが転生者であることを忘れていた人は手を上げてください。先生怒らないから。

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