第62話


『戦乙女』のパーティハウスを後にした俺は当初の予定通り、市場で買い物をしていた。

 メモにあった食材を買い終え、次は寝具を買いに行く為に歩いてると果物を売っている露天の前で声を掛けられる。


「おお、グレイさんいらっしゃい。今日も良い林檎入ってるよ!」


 この露天は俺が子供達に出会う前から、よく朝食用の果物を買っていたので店主とは顔馴染みだ。子供達と暮らし始めてからも、よくデザート用の果物を購入するのに利用している。

 そういえばラッツのおやつ用の林檎を買い忘れていたな。


「ああ。それを二つ…」


 そこでアレスが言っていたことを思い出す。


『僕が居た孤児院では特別な日にはデザートとして小さな果物を出してもらってたんです。』


 …特別な日か。


「いや、八つ貰おう」


「はいよ、いつもありがとよ!」


 代金を支払い林檎を受け取りマジックバッグへと仕舞う。一人一個は少し多いからカットしてデザートとして夕食の後にだそう。


 因みにラッツに林檎をあげる時はそのまま渡す。林檎を小さな口で嬉しそうにかじる姿は一生見ていられるからな。…食べさせ過ぎるとアリアメルに怒られるけど。


 さて、後は寝具か。いや待て、そういえばあの子達の服はどうしよう。流石にあのボロボロの服のままって訳にはいかないしな。

 それに今のままじゃ部屋数が足りないし…何よりあの子達自身がどうしたいかも訊いておかないと。


 少し癪だが宿屋の親父にも相談するべきか?


 考えなければならんことは多いのだが、何故か、それが不思議と苦ではなかった。


「ただいま」


「グレイさんお帰りなさい。お買い物ありがとうございます。お茶を入れましょうか?」


「ああ、頼む」


 買い物を済ませて家へ帰ると、アリアメルがパタパタと近寄ってくる。食材をキッチンへと持って行く際に子供達を見ると、元々ここで暮らしていた子供達とコダールの孤児院に居た子供達に別れて何かを話しあっていた。

 まあこればかりは仕方ない。いきなり仲良くはなれる筈もないし、やはり気まずさはあるのだろう。

 ただ…ニナとステラがルルエコをチラチラと見ていて、ルルエコの方も気になるのか二人の方へたまに視線を送っている。


 二人共仲良くなれたら良いな。



「アリアメルさん、こっち終わりました」


「ありがとうミアちゃん。次はこっちをお願いできる?」


「はい、任せて下さい!」


 アリアメルと夕食の準備をしていると、ミアがキッチンへとやってきて手伝わせて欲しいとお願いしてきた。

 俺は我が家のキッチンの主であるアリアメルの方を見る。するとアリアメルは


「こういう時に何も出来ないのって結構辛いんですよ」


 と、小さな声で俺に言ってからミアへと


「それじゃあお願いできる?」


 そう言ってからテキパキと作業を振っていった。フィオはお皿並べ大臣としてちびっこ達にあれこれ指示をしている。


 一方、俺とイスカとアレスは邪魔にならないようにキッチンの片隅で置物と化している。特にアレスの空気っぷりは見事なものだった。目を瞑り、息を潜めてその場の空気の一部になっている。

 もしかして、そういうスキルを持っているんじゃないかと疑う程に。


「これは見習うべきかもしれんな」


「えぇ…」


「嬉しくないです…」


 俺の言葉にイスカは困惑した表情になり、アレスは眉を潜め溜め息をついた。

 気配遮断系の技はかなり強力なのに…。



 結局、俺達置物組は物置部屋からテーブルと椅子の代わりになりそうな物を運ぶという仕事をした。


 皆での食事が終わり、片付けの前に


「ちょっと待ってろ」


 と言ってキッチンへ。林檎を切って皿に並べてると、アリアメルがやってきて何も言わずに手伝ってくれた。

 お礼を言うと微笑みながら


「喜んでくれると良いですね」


 そう言った。


「そうだな」


 アリアメルは事情を知らない筈なんだが、何か見透かされてるような気分だ。

 鑑定師は誤魔化せてもアリアメルは誤魔化せない…そんな気もする。まさかこれが聖女の力とか? …いや、考えすぎか。


 林檎は一皿に並べれなかったので、二つに分けて二人で一皿づつリビングへと持って行った。


 ――――――――――


 リビングにて。


 アレス「……」


 ミア「何でさっきからアレス置物みたいになってるの…?」

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