第61話
買い出しへと行く前に、馬車を返す為に『戦乙女』のパーティハウスへとやってきた。馬車を家の敷地内に止めて、玄関の扉をノックすると直ぐに中からやる気の無さそうな声がする。
「んー、どちら様?」
「グレイだ。馬車を返しにきたんだが、エミリアかカーシャは居るか?」
「ほいほい」
俺が返事をすると扉が開き、中からハルサリアが顔を覗かせる。
「いらっしゃい。リーダーもカーシャも多分部屋に居ると思う。呼んでくる?」
「ああ、頼む」
「りょ。んじゃ会議室で待ってて」
ハルサリアに招き入れられ、会議室へ移動中に『戦乙女』の他のメンバーと何度かすれ違う。
「おや、グレイじゃないか。よく来たね、まぁゆっくりしていきなよ」
「うげ、グレイじゃん…何しに来たのさ」
「……(目を逸らす)」
相変わらず反応は様々で、『戦乙女』結成初期からのメンバー程フランクに接してくれるイメージだ。
昔、俺に対して敵対心剥き出しの奴も居たのだが…ある時から見かけなくなったんだよな。しかも誰も詳細を話そうとしないし。
会議室で適当な席に座って待っていると、エミリアがお茶とお菓子を持って入ってくる。
「待たせたなグレイ」
「ああ、悪いな気を使わせて」
俺が差し出されたお茶を受け取り礼を言うとエミリアが対面の席に座る。
「全く心配はしていなかったが、その様子だとうまくいったようだな」
「まあな。それで今日は借りていた馬車を返しにきたんだが…」
「どうしたんだ? 珍しく歯切れが悪いじゃないか」
「実はだな…」
俺はストリアとの国境付近であったことを全てありのまま話した。ザニスのこと、子供達のこと、聖騎士のこと、そして帰ってくる途中で野盗に襲われ、馬車を傷つけられてしまったこと。
話してる最中にカーシャと、お菓子を食べにきたと宣言したハルサリアも会議室にやってきて話を訊いていた。
「という訳だ。すまん…」
「聖騎士ね……話を訊く限り結構な腕みたいだけど。この間、戦ったっていう聖騎士とどっちが強いのかしらね」
カーシャがお茶を一口飲んでからそう言った。
「この間って…あの死ぬ前に去勢されたやつ?」
テーブルに突っ伏したまま、お菓子を食べていたハルサリアが会話に参加してくる。
「ちょっとハル、行儀が悪いわよ。…って、何? 去勢?」
ハルサリアの言葉に驚いて、カーシャは思わずつといった感じで聞き返す。エミリアもお茶のカップを手に持ったまま固まっている。
「うん。グレイが…」
「待て。話が脱線している」
確かにあの
まあ実際にやったのはハルサリアだが。
「あの聖騎士とは戦ってないから正確には分からん。ロンディとは明らかにタイプが違ったしな」
ロンディはパワーでゴリ押してくるタイプだった。スクラッドが腰に差していたのはレイピアだったし、ロンディと同じような戦い方はしないだろう。
マイヤーとかいう奴は知らん。
「え、あ、うん。そうなのね。こほん…所でグレイ。貸していた馬車は傷がついちゃったのよね?」
余り興味が無かったのか、適当な反応をして露骨に話題を変えるカーシャ。まあ元々は馬車の返却とついた傷についての話をしに来た訳だしな。
因みにエミリアは今だに固まっている。
「ああ。それで修理費なんだが…」
「いらないわ」
「いや、しかしだな…」
嫌な予感がする。しかもこういう予感に限って…
「”お金は”いらないわ」
「つまりは?」
「体で返してもらうわ」
「カ…カカカ、カーシャ?!」
突然うわずった声をだして動揺するエミリア。
「…わかった。ただ、子供達のこともあるからあまり時間のかかるものは無理だぞ」
「大丈夫、わかってるわ。グレイには今度手伝ってほしいことがあるだけだから。詳細はまた今度伝えるわ 」
「な、なんだ…そういう意味か」
安堵した表情になるエミリア。どういう意味だと思ったんだ。
「ああ。いつでも声をかけてくれ」
「ええ」
カーシャが頷く。その表情は昔に何度か見たことのある、何かを企んでいる時のものだった。
…本当に大丈夫だよな?
「うわー…カーシャ悪い顔してる」
そう言ってハルサリアは最後のお菓子を口へと放り込んだ。
その後、エミリア達に見送られながら『戦乙女』のパーティハウスを後にした。
…考えてみたら何かあったら手伝うって、馬車を借りる前から伝えてあった筈だ。カーシャがそれを忘れてるとは思えないし…嫌な予感がどんどん膨らんでくる。
膨らむのは子供達の頬だけで十分なんだがな…。
――――――――――
去勢、去勢と草木も靡く。
『戦乙女』所属のエルフさん「彼の指示でやりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます