第59話


 こっちはさっさと家に帰りたいのに…面倒くせえな。子供達が起きる前に終わらせようと外に出ようとすると、大きな音がなり馬車が揺れる。


「さっさと出てこいオラ! こっちは気が長い方じゃねえんだ!」


 その直後、薄汚い叫び声や下品な笑い声が響く。コイツ等借り物の馬車に…!

 幸いなことに馬は驚いて暴れたりすることなく静かに立っている。流石『戦乙女Aランク』の依頼に連れていってる馬だ、肝が据わっている。


「え…」


「な、何?」


「ひっ」


 しかも今ので子供達が起きてしまった。怯える子供達を落ち着かせる為に声を掛けようとしてあることに気付く。

 ミアにしがみついているルルエコの様子がおかしい。目を大きく見開き、小さな声で何かをブツブツと呟いている。


「ぁ…ぁ…嫌、嫌だ…助けてお父さんお母さん…」


 ミアと目が合うと、ルルエコがここまで怯えている理由を話そうとしたので「いい」と首を横に振って止める。

 きっとそれはルルエコが孤児になった理由と同じなのだろう。そしてそれはこの状態のルルエコに訊かせるべき会話ではない。


 子供達の前に屈んで目線を合わせる。


「大丈夫、これは夢だ。だからもう少しだけおやすみスリープ。次に起きたら悪い夢は終ってるから」


 魔法により眠り始めた子供達にもう一度毛布を掛ける。これから先は子供達には見せられないしな。


 よし、殺るか。


 俺は剣を抜いて馬車からでた。


 ―――――


「おいどうすんだよ、びびって出てこねぇじゃねーか。お前が脅すからだぞ」


「あー? 知らねえよ。あんなに優しく言ってやったのによぉ。とんだ腑抜け野郎だぜ」


 結構立派な馬車だ、今日の実入りは期待できる。しかも護衛までいないときてる。馬車の中に居るのかもしれないが人数は精々二人か三人ぐらいだろう。馬車を取り囲む野盗達は仕事が終わった後のことを想像して、上機嫌に好き勝手話していた。


「ったく、手間ぁかけさせんなよ」


 しかしあまりにも反応がないため、シビレを切らした野盗の一人が馬車へと近づき、荷台へと手を伸ばした。

 しかし次の瞬間、逆くに荷台から出てきた手に野盗は頭を掴まれる。


「は? 何…」


 何が起こったか分からず間抜けな声を出す野盗。そして野盗の頭を掴んだまま荷台からグレイが出てくる。

 それを見た野盗達は怒鳴り声を上げることも忘れて固まる。馬車から出てきたのがまさか同業者とは。しかも雰囲気からして恐らく自分達より格上の相手である。


(それでもここら辺は俺等の縄張りだ、そこに踏み込んできたコイツが悪…)


 野盗達のリーダーがそう考えた時、グレイに頭を掴まれていた野盗のが地面へと倒れる。そして掴かんでいた頭を野盗のリーダーへと放り投げたグレイは


「よくも子供達を怯えさせやがったな」


 と、言って右足を上げて地面を強く踏み下ろす。すると馬車の周りを取り囲むように土でできた壁が出現する。


「っおい! コイツをころ…」


「死ぬのはテメェ等だ」


 邪悪な笑みを浮かべたグレイが地面を蹴って野盗達へと剣を振るった。



 それから先は地獄だった。

 グレイが剣を振る度に野盗の首が飛び、野盗達は味方に当たることも問わずに武器を振るうも、避けられるか腕ごと武器を落とされる。


 野盗のリーダーは戦闘が始まって早々に逃げ出した。彼等には仲間の為に命を掛けるような物好きはいない。常に自分だけが大事なのだ。


「ひい…ひい…」


 あんな化け物が居るとわかっていたらあの馬車に手出ししなかったのに…と考えるも全ては後の祭りである。


「逃がさねえよ」


 直ぐ後ろから聞こえた声に腰を抜かして地面へと倒れる野盗のリーダー。


「お前等みたいなのが居るからルルエコみたいな子供が増えるんだ。今まで散々奪ってきたんだろう? なら次はお前等の番だよな?」


 足音が、ゆっくりと近づいてきた。


 ―――――


 ガタガタと音をたてながら走る馬車の中でルルエコは目を覚ます。

 ここはどこだろう…と思い起き上がろとするも、眠っているミアに抱き締められていて身動きが取れない。


 なんとか頭を動かして御者台を見ると、丁度後ろを向いたグレイと目が合う。


「…起きたか。もう少しで着くからまだ寝ててもいいぞ。着いたらちゃんと起こすから」


 こくりと頷きルルエコは目を閉じる。

 何かとても怖い夢を見ていた気がするけど、一体どんな夢だったかな…と、考えながら。


 ――――――――――


 次回予告(嘘?)

 エミリア達に借りた馬車についた傷、不機嫌になったチビっこ達、足りないベッドと夕食…グレイは生き残ることができるのか?


 次回

「控えめにいって勢いで生きている」

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