第58話


「……」


 現在俺の目の前には身を寄せあって震えている子供達。そして馬車の周りには沢山の死体と剣を抜きっぱなしだった俺。


 慌てて剣を鞘に収めるも完全に後の祭りだった。言い逃れできないなこれ。

 この馬車の中からは外の死体は見えないのは不幸中の幸いか。…しかしどうしよう、なんて言えば。


「あ…あの、わ、わたしはどうなっても構いません! だ…だから他の子達には手を出さないで下さい!」


 子供達の中の最年長っぽい青い髪の少女が他の子供達を庇うように前にでる。


「いや、一応助けに来たんだが…」


「…え」


 何か反応がアレスに似てるな…。そして訪れる沈黙。そんな気まずい沈黙を破ったのは子供の腹の音だった。

 きた、ここしかない!


 俺はすかさずマジックバッグからラッツのオヤツ用の林檎を一つ取り出して、子供達へと差し出す。


「食うか?」


 その時、頭の中に両手を差し出して林檎を欲しがるラッツの姿が浮かんだ。ぐっ…すまんラッツ。ちゃんと帰る前に新しいの買っておくから…。


 俺が差し出した林檎にアッシュグレーの髪の小さな少女が恐る恐る近寄ってくる。


「…くれるの?」


「ああ」


「あ…ルルエコ」


 不安そうに首を傾げるルルエコと呼ばれた少女をできるだけ怖がらせないように、ゆっくりと林檎を渡す。林檎を受け取ったルルエコは


「…ありがと」


 と、言って他の子供達の元へ戻っていった。


「あ、えと…ありがとうございます」


 子供達が一つの林檎を全員で少しづつ食べている姿を見ていると、青い髪の少女が頭を下げなからお礼を言った。


「ああ。それより林檎一個じゃ足りないだろう。近くに馬車を止めている。そこにいけば全員が腹いっぱいになるぐらいの食料もある」


 まあザニスが乗っていた馬車やもう一台の馬車にも食べ物はあるんだろうが。取り敢えずこの場所から離れないとな。


「え、でも…」


 悩む青い髪の少女。


「このまま此処に居ても魔物や野盗の餌食にされるだけだ。俺はお前達をアレスの元へ…」


「…! アレス! アレスを知っているんですか?!」


 アレスという名前に激しく反応する青い髪の少女。俺はその必死な姿に少し気圧されるように答える。


「あ…ああ。色々あって今は家で一緒に暮らしている」


「そっか、アレス無事なんだ。本当に良かった…」


 目の前の少女は俺の言葉に心底安堵した表情を見せた。最初からアレスの名前を出してればよかったな。


「あ、そうだ。わたしの名前はミアといいます。アレスとはずっと同じ孤児院で育った……ええと、幼馴染みです」


 ミア…そういえばアレスがそんな名前を言っていたな。しかしなんだろう今の間は。


「しかしやけにあっさり信じるんだな。俺がお前達を騙そうとしてるとは思わないのか?」


「わたし達なんかを騙すメリットなんてありませんから」


 ミアは俯きながらそう言った。


「……そうか」


 、か。この子達は孤児から無理矢理奴隷にされたのだ。自分達には価値がないと思っていてもおかしくはない。

 俺は下らんことを言った自分にイラつきながら、子供達を馬車で待たせて外の死体を近くの茂みに隠す。血は…まあしょうがねえか。


 ついでにもう一つの馬車を軽く物色するとマジックバッグを見つけた。俺の使っているものより上等なものだ。

 そのマジックバッグには、予め金品や薬が収納されていたので、子供達への迷惑料代わりに貰っていくことに。帰ったらアレスに渡すか。



 子供達を連れて俺が乗ってきた馬車へと向かう。ミア以外の子達も最初は戸惑っていたが、アレスの名前を訊くと皆進んで付いてきた。あの内気で優しい少年勇者はこの子達にとっての兄代わりなのだろう。


 ニナにとっては弟らしいが…。


 馬車でバストークへ戻っている途中で後ろが静かだったので幌の中を覗くと、子供達は隅っこの方で身を寄せ合うように眠っていた。

 食事が済んで眠くなったのだろう。馬車をその場に停めてから子供達に毛布をかける。


 …ミアやルルエコ達の寝顔を見てたら、無性にうちの子達に会いたくなってきた。

 そう思い立ち上がると、突然外の方から下品で不愉快な声が聞こえてくる。


「おい、馬車から出てこい! へっへっへ、大人しくしてりゃあ命までは取らねえからよ!」


 あ? …人が急いでる時に。


――――――――――


あ! やせいのグレイが とびだしてきた!


いけ! おかしら きみにきめた!


リクエスト頂いたグレイが子供達に出会う前の話は字数の関係で結構時間がかかりそうなんで気長にお待ち下さい。

グレイの過去編はどうにもシリアスになってしまう…。

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