第56話
首を失った護衛が崩れるように倒れる。
その光景に思わず「は?」と、間抜けな声がでてしまう。私には野盗のような男の動きは全く見えなかった。
もしかしてこの野盗は罪を犯して、冒険者資格を剥奪された”元”冒険者なのかもしれない。しかも高ランクの。
だがこちらの護衛にも高い金を払って雇った凄腕の傭兵がいる。過去に雇い主である貴族とトラブルを起こし、その貴族の私兵を殺害。お尋ね者になり隣国からストリアへと逃げてきたという。コイツなら聖騎士とだって渡り合える。だから幾らこの野盗が強かろうと負ける訳がない。
槍を構えた護衛が野盗へと踏み込む。見事な槍捌きに防戦一方の野盗。いける、やはりあの男を雇って正解だった…私がそう考えた時、何故か攻めていた護衛が後ろへと下がる。何をやっているんだ、あのまま押しきれただろうに。
しかしこの時二人の様子に違和感を覚える。
攻めていた筈の護衛は大量の汗をかき焦った表情をして後退り、野盗の方は獰猛な笑みを浮かべながらゆっくりと護衛へと近寄る。
ど…どういうことだ。押していたんじゃないのか?
その時、別の護衛達が野盗の左右と後ろから斬りかかる。そうだ、そもそもお堅い騎士様でもあるまいし一対一である必要なぞないのだ。正面に居た槍を持った護衛も動く。流石に四方からの攻撃を防ぐことはできないだろう。
だが
次の瞬間、野盗へ斬りかかった護衛達の動きが止まり、そのまま四人共地面へ倒れる。
な、何が起こった? 何故攻撃を仕掛けた護衛達の方が倒れたのたんだ? まるで魔法のような…いや、あんな野盗に魔法なんかが使える筈は…護衛達は一瞬死んだのかと思ったが、地面に倒れた状態でもぞもぞと動いているので生きてはいるようだが。
「……ひっ!?」
そして信じられないことに、野盗は倒れている護衛達一人一人の首を刎ねていく。
しかも野盗は腰を抜かしてへたりこんでいたり、命乞いをする明らかに戦う意思のない従者達も容赦なくその手にかけている。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ…もう残っているのは私と別の馬車に居るガキ共だけ。
くそ…こうなったら転移石で逃げるしかない。馬車の積み荷は惜しいが命にはかえられない。
マジックバッグはもう一つの馬車か…どこまでもついてない。大体ストリア聖国からやっと出れそうになったタイミングであんな化け物みたいな野盗に出くわすなんて。
……まさかとは思うが隣国にはあんな野盗がゴロゴロいるのだろうか。これならストリア国内の別の街にでも逃げた方がよかったかもしれない。
金品の入った袋を一つ持ち、懐から転移石を取り出す。しかし震える手ではうまく持つことが出来ずに落としてしまう。くそ…速くしないとアイツが…。落としてしまった転移石を拾うため屈み込む。
その時、頭の上から低く恐ろしい声が聞こえた。
「見つけたぜ。テメェがザニスとかいう
「あ…あ…」
恐怖で声がうまくだせない私に野盗が言った。
「自分から頭を差し出すなんて殊勝な心がけじゃねえか。ああ、懺悔もお祈りもいらねえぜ。そういうのはあの世でたっぷりしな」
目の前の男が剣を振るう。
何年め何年もかけて漸くここまで商会を大きくしたのに。たった数日で私は全てを失った。自身の命さえも…。
――――――――――
(情報屋の野郎…アレのどこが手練れだよ)
馬車を襲撃する為に買った情報では、護衛には手練れもいると聞いていたので警戒していたグレイ。おそらくあの槍を使っていた護衛のことなのだろうが、いざ戦ってみればこの間戦ったロンディにすら及ばない腕だった。
(斬った人数と情報にあった人数は合ってた。後は子供達か)
グレイはザニスの死体の転がる馬車を見渡すが中には金品と食料しかなかった。
(ここじゃないか。なら…)
グレイは念のため剣は抜いたまま別の馬車へと歩いていく。そして馬車の中を覗こうとすると…
「おや…これは一体どういうことですか?」
後ろから声がしたので後ろを振り返るグレイ。そこには白い鎧を着た、黒髪を七三に分けて眼鏡をかけた神経質そうな男が立っていた。
「そこの貴方に訊きたいのですが…これは全て貴方がやったんですか?」
男は眼鏡を直しながらそう質問した。
――――――――――
立てば山賊、座ればマフィア。歩く姿は凶悪犯
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