第55話
「…国外逃亡をしようって割には大所帯だな」
情報屋から追加で買った情報を整理する。
馬車が三台にザニス、使用人、護衛を合わせて十二人か。そして子供が五人。
三台のうちのどれかに子供達が居るのだろう。護衛には手練れも居るらしいから、殺るならソイツからだろう。
使用しているルートも分かった。ただこれについては情報屋から「向こうが途中でルートを変えても責任はとれませんよ」、と言われている。
値段は金貨50枚。安くはないが、確実に子供達を助ける為だ。それにザニスも私財を持ち出しているらしいし、元は取れるだろ。
馬車を借りる為に、このことをエミリア達に話したらハルサリアに
「どうみても商人を襲う計画立ててる野盗」
とか言われた。
「そうか?」
「まあ、これは否定出来ないわね」
…野盗の部分も?
「ええと…私はグレイらしくて良いと思うぞ。うん」
エミリアとカーシャに意見を求めたら二人共、目を反らしながらそう答えた。俺にだってエミリアの発言がフォローになってないことは分かる。
「こほん…馬車は明日の朝には用意するから少し待っててくれ」
わざとらしい咳払いをしてエミリアが話題を戻す。
「世話になる。最近色々と頼ってばかりだな。本当にありがとう、また俺にできることがあれば言ってくれ」
エミリア達が居なければ結構まずい場面も多かったしな。
「そうか、ではまた何か頼むとするかな。ふふ…さあて何を頼むかな」
エミリアはそう言って悪戯っぽく笑った。
「……お手柔らかに」
『戦乙女』のパーティハウスから帰る途中で、今回の件にアレスを連れていくかどうか悩んでいた。
子供達が生きているならアレスを同行させるのもアリだろう。ただ問題があるとすればストリアからの追っ手か。そいつらにアレスの居場所がバレるのはよろしくない。
やはりここは俺一人で片付けるか。
問題は明日は帰れそうにないことだな。子供達にどう説明しよう…。と、取り敢えず今日は思う存分遊んであげよう。
そう決めて俺は家の扉を開く。
「ただいま」
――――――――――
もう少し、もう少しで国境を越える。
そうすれば流石にストリアのからの追っ手も簡単には手出しができないだろう。
雇っている護衛も手練れだが、聖騎士相手だと不安が残る。万が一にもそんなことは無いと思うが、聖騎士長のライゼンや副長のカストルが出てきたりしたら詰みだ。
何年も変態貴族や私利私欲にまみれた聖職者が望むままに違法な商品を用意したり、袖の下を渡したりして沢山のコネを作ってきたのに全て無駄になった。
くそっ、クーデターだと? 下らないことしやがって…。
今ストリアでは一部の貴族や聖職者と関わりの深かった、私のような商人が次々に捕まっている。このままでは私も捕まって処刑だろう。…冗談じゃない…こんなところで終わってたまるか!
クーデターの理由の一つに神託の勇者を勝手に国外へ連れ出してた挙げ句、行方不明になった司教のこともあった。当然その司教もうちのお得意様だったんだが。それだけじゃない、司教と一緒に行方不明になった聖騎士ロンディもだ。いや、今となっては”元”聖騎士か。ことが公になった際に除隊処分になったというし。
本当についてない…。だが私にはまだ最後の希望がある。それが勇者と暮らしていたガキ共だ。こういう時の為に誰にもあのミアとかいうガキにも手を出させてないんだ。
幸い司教達の行き先も目的もわかっている。行方不明なんていっているが彼奴らがそう簡単にくたばるとは思えない。いや、司教やロンディはもうどうでもいい…勇者さえ、勇者さえ見つけることができればガキ共を交渉材料にして…。
その時、突然馬車が止まり外の方が騒がしくなった。
(まさか追っ手か?! )
そう思い恐る恐る馬車の外を覗いてみると、うちの護衛が野盗のような男に剣を向けていた。ストリアからの追っ手ではないことに安堵して同時にこんなタイミングで襲ってきた男に苛立ちを覚える。
しかも仲間の姿が見えないが…何処かに隠れているのだろうか? まさか一人ということは無いだろう。
外の方から男の声が聞こえる。
「ああ? 誰が野盗だよ。どっからどうみても冒険者だろうが」
…あいつは一体何を言ってるんだ?
そう思った瞬間、剣を向けていた護衛の首が飛んだ。
――――――――――
『戦乙女』所属のアーチャーさん「完全に一致」
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