第54話
「クーデターだと? 聖騎士とやらはどうした?」
ストリアには普通の騎士が束になっても敵わない聖騎士達がいた筈だ。そんな奴等がいるのにクーデターが成功するのだろうか。
いや、話しには訊いていたが実際に戦った聖騎士はあのロンディと呼ばれていた男だけだ。アイツが聖騎士達の中で一体どの程度の強さなのかは分からないが、あんなのが何人も居るんだったら厳しいんじゃ?
「ええ。ですからクーデターには聖騎士長ライゼンを含む半数以上の聖騎士が参加していましたからね。ストリアのお偉いさんが大聖堂に集まったタイミングで護衛の聖騎士達が突然、剣を抜き大聖堂を制圧。あっという間でしたよ。」
となるとそのお偉いさん達は全員処刑されたか。つまり今はザニスとかいう
しかし聖騎士長様がクーデターねえ…。
「まるで直接見ていたかのような口振りだな」
「さあ。どうですかね?」
…相変わらず胡散臭え奴だ。だがコイツは情報屋としては超が付くほど一流だ。
「…まあストリアがどうなろうと知ったことじゃない。それよりその国外へ逃亡しようとしてるザニスって野郎の現在の状況を詳しく教えろ」
「彼は現在持てるだけの私財を持ってこの国へと移動していますよ」
あ?
「偶然にしちゃ随分都合の良い話しだな。その”私財”に子供達は?」
「含まれていますよ。というかメインはその子供達でしょう。勇者の家族は彼にとっての切り札でしょうし」
つまりザニスは
「クーデターは勇者絡みか」
「まあ理由の一つではあるでしょうねぇ。大義名分としては分かりやすいですし」
そういうことなら待っていても向こうからやってくるということだ。
じゃあ待つか? いいや駄目だね。折角この街へと来てくれてるんだ…ちゃあんとこっちからお迎えしてやらないと失礼だよなぁ? ククク…
「成る程。わかった」
「ご満足頂けましたか?」
「ああ」
そう言って残りの報酬金貨200枚を渡す。
「はい、確かに。ではまたのご利用をお待ちしてますよ」
そう言って背中を向けて立ち去ろうとする情報屋に後ろから声をかける。
「おい情報屋」
「はい?」
「もう一つ欲しい情報がある――」
――――――――――
「…地獄で永遠に苦しめ、ゴミ共め」
薄暗い部屋の中で横たわる死体に蔑むような視線を向ける黒髪の青年。
(…おれたちをバラバラにした強欲な蜘蛛も壊滅させたし勇者も終わらせた、奴隷商もコイツで最後、アリア姉…仇はとったよ)
剣を鞘に収めながら部屋から出る青年。そのまま屋敷から出ようとしていた青年だったが、途中で偶然隠し通路を発見した。
もしかしたらこの先にまだ生きている奴隷達が居るかもしれないと思った青年は、魔法で作った小さな灯りを頼りに通路の先の階段を降りる。
地下へと続くその階段の先は牢屋になっており、その一番奥には複数の白骨化した死体があった。大きさからして全て子供のものだろうか…死体は寄り添うように冷たい地面に転がってた。
そんな子供達の死体を見て青年はギリッと歯を食いしばる。
(この子達が一体何をしたというんだ……おれ達が一体何をしたというんだ! ただお互いに身を寄せあって生きていただけなのに)
無意識にその子供達と自分の境遇を重ねる青年。あの日突然奪われたもう二度と戻ることのない小さな幸せ。
許せない。こんな理不尽が許せる訳がない。
背中を向けて歩きだす青年。
復讐をしても失くしたものを取り戻せないことなんて分かっている。ただ他人から奪ってきた奴等に奪われる悲しみを、苦しみを、絶望を味わって欲しいだけなのだ。
乾いてひび割れた心は、奴等の血でしか潤うことはないのだから。
――――――――――
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