第53話
アレスが冒険者になって六日が過ぎた。
あれから毎日色々な討伐依頼をこなしている。ゴブリン、オーク、トレント…他にも盗賊や罪を犯した元冒険者等。ランクと依頼の難易度が合わない? ゴブリンを倒しに出掛けた先で違う魔物と偶然遭遇するなんてよくあることだぞ。ククク……まあサシャには呆れた顔をされるんだが。
アレスは日々成長していて懸念していた人間相手の戦闘もしっかりこなせている。ただやはり魔物相手に比べるとかなりやりづらいみたいだ。
もっと色々な種類の魔物と戦わせたいが日帰りだと限界がある。せめてキリオス山まで足を延ばせればハーピーや
ついでに薬草の見分け方や売れる素材についてもレクチャーしている。こういう知識は冒険者にとっては結構重要だ。俺も冒険者になりたての頃はゴブリンを一、二体と薬草を集めたりなんかして日銭を稼いでいたからな。
そして成長しているのはアレスだけではない。イスカとフィオもである。
イスカは剣を振るう時に目を瞑る癖が直り、しっかり相手を見て動くようになった。
特にフィオは昨日の夜にとうとう魔法を発現させた。まだ小さな魔力の揺らぎで、見た目では全然わからないもので本人は
「うーん…全然だなぁ。イメージが足りないのかな?」
なんて言っていたが、この短期間でここまで成長するなんて想定外である。
嬉しいといえば嬉しいのだが…少し複雑な気分だ。
今アレスはサシャに”偶然”出くわしたオークの討伐報告をしている。サシャは溜め息をつきながら処理していた。
そういえば昨日エルダーオークの討伐を成功させた『血斧』が戻ってきた。やりきった顔で当たり前のように絡んできたガンザスに、偶然マジックバッグに入っていたゴブリンジェネラルの首を投げてやったらまた腰をぬかしやがった。
全く俺も優しいな、これで次に『血斧』がチャレンジする魔物が決まったようなもんだな。ジェネラルが倒せたら次はマンティコアの首でもプレゼントしてやるか。
そう思っていると視界の端に見覚えのある人物が映った。中肉中背の糸目の男…情報屋は俺と目が合うと直ぐに冒険者ギルドから出て行った。
俺はアレスに用事ができたので、寄り道をして帰ることを伝えてから情報屋を追って冒険者ギルドから出る。
俺は一定の距離を保ちながら情報屋の後ろを歩く。…この生活も終わりかもしれないな。
情報屋を追って路地裏へ。
「やあ。お待たせしてしまいました。思ってたより手間取っちゃいましてね」
情報屋は壁にもたれかかったまま話す。
「別にいい。それより結果は?」
「ええ。まずコダールの孤児院ですが無くなってました。孤児院があった筈の場所はフィロー商会の新店舗になってましたね」
フィロー商会? 確かこの国でも有数の豪商だったか。だが…フィロー商会の会長とその妻は数年前に事故で死亡したと訊いたことがある。詳細は知らんが。
今は身内の誰かが会長の座についているのだろう。…事故、というのも怪しいものだ。
「気になりますか?」
「…まあ豪商が他国で店を出すこと自体は珍しいものではない。今はそのことはいい。それより孤児院で暮らしてた子供達のことだ」
情報屋はどこか残念そうに「そうですか」と言った。コイツその情報も追加で売ろうとしてやがったな。
「それで子供達のことですが…生きてますよ、全員」
…最悪の結果は避けられたか。
「ストリアで奴隷として…ですがね。口封じに殺さなかったのは、勇者に対するいざという時の切り札にする為って所ですかね」
「あ? ストリアじゃ奴隷は禁止のはずだろ?」
「表向きはそうですね。けどあの国の貴族や一部の聖職者は普通に奴隷を囲ってるみたいですよ」
「チッ」
クソが…ある程度予想通りとはいえ不愉快な話だ。
「…それでその子供達を奴隷にした
情報屋が肩を竦めながら「殺気、漏れてますよ?」と言った。
「奴隷商の名前はザニス。表向きは普通の商人ですが、裏では貴族や聖職者達相手に違法な商品を用意する代わりに色々な便宜を図ってもらっていたみたいですね」
ザニス…名前はわかった。後は俺がストリアへ行ってる間、イスカ達の面倒を見てくれる人間を…――
「そしてそんなザニスは現在、国外逃亡を図っているみたいですね」
「はあ? 何でまた」
何でそんな立場の奴が国外逃亡を?
「ストリアでクーデターが起こりました」
―――――――――――
ジェネラルの首はちゃんとメリンダが泣きながら処分しました。
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