第52話



 次の日、朝起きて寝ているステラとラッツの頭を撫でてから一階へ降りると、キッチンでアリアメルとエミリアが朝御飯の準備をしていた。エミリアは頼まれた食材を運んでいるだけだったが。


「おはよう。二人共早いな」


「おはようございますグレイさん」


「ああ、おはよう。そういうグレイは寝坊か?」


 俺が後ろから声をかけると二人はほぼ同時に振り返り、アリアメルは優しく微笑みながら、エミリアは悪戯っぽく片目を瞑りながら挨拶を返してくる。

 …確かに最近朝起きるのが遅くなっているな。弛んでる? 子供達と寝ると温かくてつい…。


「グ、グレイ? 冗談だぞ?」


「ん? ああ。わかってるよ。それより俺も手伝う、何をすればいい?」


「それじゃあグレイさんは野菜を切ってもらえますか?」


「ん、任せろ」


 そう言って包丁を取り出し準備をしていると。


「あ…切るぐらいなら私でも」


 エミリアがソワソワしながら手伝いを申し出てくる。


「エミリアは剣以外の刃物を扱えないだろ」


「…むう、お皿並べてくる…」


 そう言われてしょんぼりした顔になるエミリア。…包丁で木製のまな板を真っ二つにするからある意味で使えてるのかもしれないが。

 そんな俺とエミリアのやり取りを見てアリアメルは少し羨ましそうに微笑んでいた。


 それから皆で朝食を食べて俺とアレスは冒険者ギルドへ、エミリアは『戦乙女』のパーティハウスへ戻ることに。家から出る際にアリアメルから弁当を三つ渡される。


「い、いつの間にお弁当の準備を…」


 それは俺も気になってアリアメルに直接訊いたことがあるんだが…何かいつも前日には準備が終わらせてて当日は詰めるだけって状態にしてるらしい。冷めていても美味しく食べられるメニューをリナに教えてもらったりもしているとか。

 あの後ちゃんと謝りはしたが…前に当日に弁当要らないとか言ったことを凄く後悔している。


「アリアメル」


「はい。どうしました?」


「いつもありがとう。感謝してる」


「え…は、はい。…私もグレイさんには感謝してます。勿論、皆も…ね?」


 アリアメルがイスカ達に視線を向けながらそう言う。

 自主稽古をするイスカとフィオ。俺の周りをぐるぐる走り回るニナとステラ。野良猫とじっと見つめ会うラッツ。そして何故か俺とアリアメルが会話してると距離をとるアレス。


「そうか」


 俺も皆には感謝している。こうして幸せだと思える日があるのは、この子達のお陰だからな。

 …しかしアレスのあの行動奇行は一体なんなんだろうか、何か悩みでもあるのか?


「ではアリアメル…その…世話になったな。お弁当まで持たせてもらって。ニナとステラもまた遊んでくれ」


「いいえ、私も楽しかったです。また色々お話しを聞かせて下さい」


「えみりあおねえちゃ、またきてね」


「またね」


 エミリアが少しだけ名残惜しそうにアリアメル達と挨拶をする。大分打ち解けてくれたみたいだな。

 しかし気のせいかもしれないが、エミリアとアリアメルの間には微妙な空気が流れている気がする……と、いうかエミリアが一方的に気まずそうにしている。

 アレスやエミリアと一度よく話し合った方がいいかもしれない。


 冒険者ギルドと新しい『戦乙女』のパーティハウスは方向が同じなので、途中までエミリアと行くことに。


「…良いものだな、家族というのは」


 隣を歩くエミリアがアリアメルに渡された弁当を眺めながらそう言う。アレスはやや後ろの方からついてきている。


「だろう」


 俺がそう返すと少し間を置いてから


「うん。私も久しぶりに父様や母様、姉様に会いたくなったよ。もっとも、向こうは会いたくないだろうがな」


 と、昔を懐かしむように、そして少し寂しそうにそう言った。…エミリアの実家のことは昔付き合っていた時に本人に訊いた。

 エミリアの実家はとある地方貴族で、そこの三女として産まれたエミリアは政略結婚を嫌がり家を飛び出したという過去がある。カーシャとは産まれた時からの幼馴染みで実の姉妹達より仲が良かったそうだ。エミリアが家を出た時も当たり前のように付いてきてくれたそうだ。


「さて、ここでお別れだな。昨日は突然押し掛けて済まなかった」


 どう返そうか考えていると別れ道についてしまった。難しいな…こういうのは他人がどう言っても気休めにしかならないし、そんなものを求めている訳でもないだろうし。


「いや、大丈夫だ。また遊びに来てくれ。子供達も喜ぶし、いつでも歓迎する」


 ニナもあんなに懐いてたしな。……別に悔しくなんてないぞ。


「ああ、必ず。それでは二人共、またギルドでな」


「ああ」


「はい。また」


 そう言ってエミリアは小さく手を振ってから背中を向けて歩きだした。少しの間それをアレスと二人で見送る。


「俺達も行くか」


「そうですね。…あの」


「どうした?」


「グレイさんとエミリアさん。お二人の関係って…」


 何で皆いちいちそんなことが気になるんだ…?


 ――――――――――


 アリアメルの精神年齢…何歳ぐらいでしょう?(作者にもわからない)


 アレス「恋人同士のやり取りを邪魔してはいけない(勘違い)…あれ、でもエミリアさんとも仲が良さそう。…むむむ」

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