第13話


「……いきなり魔物の首をカウンターに置くのって、何ハラスメントに該当すると思います?」


「ただの達成報告だぞ」


 サシャは呆れた顔でカウンターに置かれたエルダーオークの首と俺の顔を交互に見る。


「はあ…これ私以外の受付にはやらないで下さいね。新人の子とか気絶するんじゃないかしら…」


「いや、心配しなくても俺はサシャの列にしか並んでないだろ」


「こう…お前にしか首を提出しないって言われて私はどんな反応をすればいいんですか?

…まあいいです、報酬の銀貨5枚をお渡しします」


 オーク一匹の相場銀貨5枚を受けとる。


「ああ…と、そうだ。 少し訊きたいことがあるんだが」


「珍しいですね、後ろがつかえてるので手短にお願いします」


「パーティハウスを探しているんだが。この近くで何処か手頃な物件を知らないか?」






「本当によかったのか? まだ後ろ大分並んでたぞ」


「ええ、パーティハウスの案内はギルドの仕事ですから」


 サシャにパーティハウスについて尋ねたら突然


「成る程、そういうことなら案内します。メリンダ、後お願いします 」


「はぁ~い、わかりまし……」


 と言いカウンターの奥に居た別の受付嬢と交代して案内してくれることになった。

 代わりに呼ばれたメリンダという間延びした喋りかたをする受付嬢は、カウンターに置かれたままのエルダーオークの首を見て固まってしまった。


 俺とサシャが冒険者ギルドを出ようとすると後ろから


「せ、先輩?! この首どうすれば?!」


「さ、行きましょう」


「ちょ先輩?! 先輩?! カムバック先輩!」


 という声が響いた。


 サシャ曰く、彼女はサボりの常習犯でああして仕事を名指しでやらさないと、直ぐ居眠りや自主的に休憩をするそうだ。


 首を置いていってすまない…メリンダと後ろに並んでた冒険者達。


「ここですね。条件には沿えると思います、取り敢えず中を見てみましょう」


「おいここって……」


 サシャに案内されたのは見覚えのある二階建ての大きな建物。


「ええ、元々『戦乙女』が使ってたパーティハウスです。 パーティの規模拡大に合わせて別の建物へ移られたのでここは現在空き家となっています」


「…そうか」


 パーティ『戦乙女』。 女性だけで構成されたA+パーティで現在このバストークで最もS級に近いとされている。

 S級はS-でもAとは別格の扱いだ。 王族や貴族達のパーティへ呼ばれたりもするらしいし、もう別の世界だな。

 特に『戦乙女』は美人揃いだから貴族の令息達が放っておかないだろう。


 …俺の昔のパーティメンバーが居る関係で一度ここに呼ばれたことがある。

 色々思うところはあるがこの物件は魅力的だ。 広さ、部屋数、立地条件、風呂も当然ある……く…ニナの喜ぶ顔が勝手に浮かんでくる。





「即決でしたね」


「あの物件にしては値段がかなり安かったからな。 相場の半分くらいじゃないか?」


「『戦乙女』の方々があの建物を売る際に、貴方に売る場合は半額は此方が持つとお達しがありまして」


「………」


 え…何でだ?

 何か嫌な予感がするけど気のせいだよな…?


 その後サシャを冒険者ギルドまで送ると中からメリンダの怨嗟の声が聞こえた。

 ……改めてすまん。




 イスカ達は喜んでくれるだろうか…。

 そんなことを考えながら薄暗くなってきた街中を歩いてると、人通りの少なくなった所で囲まれてることに気付いた。


「誰だ? 不意討ちしたいなら殺気ぐらい隠せよ」


 言葉に魔力を乗せて敵の数と位置を調べることもできるが、そんなことをする必要も無い程に殺気を放ってくる。


 正面の物陰に二人、建物の屋根の上に二人、背後に一人。目的なんて俺の命しかないだろうが、一応訊いておくか?


「グレイというのは貴様だな、その命を貰い受ける」


 おい勝手に喋るなよ、まだ訊いてないだろうが…。


 正面にいた二人が物陰から姿を現す。

 黒いローブに蜘蛛の巣模様の仮面、両手にはダガーが握られている。


 蜘蛛の巣……。


「お前等もしかして強欲な蜘蛛とかいう組織の人間か?」


 一瞬奴等の纏う空気が変わる。

 いいね、分かりやすさは重要だぞ。


「…これから死ぬ貴様が知「駄目だ答えろ」…」


「なっ?!いつの間がっ…」


 距離を詰めて二人の内、喋ってた方の首を斬り飛ばしてもう一人の首を手で掴む。


「さっさと答えろ。お前達が強欲な蜘蛛とやらじゃないなら普通に殺す。もし強欲な蜘蛛とやらなら苦しめて殺す。さあ、どっちだ?」


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