第5話


「お兄ちゃん行ってくるね!」


「◯◯、留守中戸締まりはしっかりね」


「本当にいいのか◯◯…ま、お前ももう中学生だしな」


「「「行ってきます」」」



 その最後の言葉を俺は……――



 朝起きて直ぐ、市場で今日イスカ達が食べる分の食材を買い込み、小屋へ届けてから冒険者ギルドへ。


 申し訳なさそうな顔で受けとるイスカやアリアメル。 ニナやステラはまだ寝ているらしく「顔を見ていきますか?」とアリアメルに微笑みながら言われた。 出張行く前のお父さんかよ。



 昨日は結局俺も一緒に食事をして、せめて片付けぐらいは…と言うアリアメルに任せることに。

 宿へ戻る為に立ち上がろうとすると、ニナがよたよたと歩いてきて俺の膝の上に座る。


「…おとーしゃん」


 そう言って、ニナは手に持ってたボロボロの人形を俺に渡してきた。

 所々糸が解れて中の綿もはみ出している。

 これなら針と糸があれば直せるが……。


「あ、ごめんなさいグレイさん。 ニナ…グレイさんはお家へ帰らないといけないから…ほら、こっちへおいで?」


「や……おとーしゃんのおうちここ」


 と言われニナが寝るまで膝を占領され、寝てからも暫くの間指を握られていて、結局宿屋へ戻ったのはかなり遅くなってからだった。

 戻ったら戻ったで宿屋の親父に

「なんでぇ今日は遅いからてっきり娼館でしっぽりやって、朝帰りでもすんのかと思ったのによ」


 なんて下世話なことを言われたので娘のリナに告げ口をしといた。 あの親父も中々強面だが、一人娘のリナには頭が上がらずに何時も怒られては小さくなっているので今もきっとそうだろう。


 …まあどうせ反省しないだろうが。


 そして肝心のステラは食事をする時に一度だけ起きたが、何というか不思議な子だった。

 アリアメルが言っていた通りの綺麗な赤い瞳をした、無口で無表情な美少女は俺をじっ…と見詰めてから何事も無かったように食事をはじめ、食べ終わったら即寝た。

 ……割りと元気だった気がするのは気のせいだよな…?





 冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、まだ早い時間だというのに沢山の冒険者で賑わっていた。

 冒険者だけで生活してる俺のような”専業”は沢山の依頼の中からできる限り実入りの良いものを求め、こうして朝早くからギルドへ集まってくる。


 ”兼業”冒険者は国に仕えてる騎士や、自ら素材を集めて商売をする錬金術師や魔導師なんかがそれにあたる。


 依頼を見に掲示板へと向かうと沢山の視線を感じる。 まあよくあることなので気にはしていない。

 俺はこのギルドの常連の中では結構な有名人だし。 悪い方のだが。


 恐喝、暴行、トレイン、擦り付け、獲物の横取り…全く身に覚えのない俺の噂をよく耳にするが、下らん…そんなことしてたら冒険者資格なんてとうの昔に剥奪されてるわ。



 チンピラ達についてはノーカウントだろ、寧ろ治安維持に貢献したのだから誉められても良いぐらいだ。 …だよね?

 ギルドには盗賊団や指名手配された犯罪者の討伐依頼なんかもあるが、捕縛でも殲滅でもどちらでも構わない場合は、俺なら迷わず後者を選ぶ。

 捕縛した所で報酬に大した違いは無いし、何より手間だ。 どちらにせよ処刑されるんだし、遅いか早いか…その程度の差だと思っている。

 だからもしあのチンピラ達がイスカ達に危害を加えるようなら…次は迷わず殺す。 背後にいる組織諸とも殲滅する。



 掲示板に張り出された依頼書の一つを剥がし受付へ歩く。


「おお、グレイじゃねーか。 今日も討伐依頼を受けて買った素材で達成報告するのか?なあ?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、戦斧バトルアックスを担いだ大男が立っていた。


 男の名前はガンザス。『血斧』というパーティのリーダーで俺と同じBランク冒険者だ。ガンザスの後ろには『血斧』のパーティメンバー達がニヤニヤしながら俺をみている。


 俺は溜め息をつきながらガンザス達を睨む。


「朝っぱらから絡んでくるなよ鬱陶しい。

 暑苦しいのはその面だけにしとけ」























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