第4話


 俺の前に五人のチンピラが倒れている。


「あのさ」


 屈みながらそいつ等に声をかける。


「ハッキリ言っておくけど…もしあの小屋の子供達に手をだしたら、キリオス山の山頂に張り付けにしてハーピーの餌にするから。 あいつら獲物が死なないように手や脚の先からゆっくり…本当にゆっくり齧るんだよ」


 いや知らないけど。 流石にハーピーの生態なんて分からないし。

 でもコイツ等にそんなことがわかる筈もなく、全員顔を青くして震えている。

 ……俺の顔を見て。


 俺が拠点にしてるバストークという街は、この国の王都と他国を繋ぐ街道沿いにあり、人街の規模も大きく人口も多い。

 でかい冒険者ギルドもあり、そこそこの難易度でそれに見合った報酬の依頼も多く、俺のような専業冒険者としても暮らしやすく有難い。


 しかしまあ、人口が多いってことはその分こういったチンピラや闇ギルド気取りの犯罪者も居る訳で。

 コイツ等も俺に殴られながら、頻りに自分達のバックにいる組織の名前を言っていた。

 確か『強欲な蜘蛛』…だったかな。

「俺達にこんなことをしてタダで済むと思うなよ! 強欲な(ry」

「テメェ覚えてろよ! 強欲な(ry 」

「もうやべでぐだざい! 腕はそんな方向にはまがあぁぁぁ」


 ……よく覚えてないが確かそう。


 コイツ等が絡んできた理由は俺を同業者だと思ったからだそうだ。 何でもコイツ等の業界では基本的には早い者勝ちで、後から来た方が獲物を譲ってもらう場合はちゃんと対価を払って、お互いが合意してからでないと後々かなり面倒なことになるらしい。


 つまり俺に交渉を持ち掛けてきたという訳だクソがっ!

 人を見た目で判断しちゃいけませんって小学校で習わなかったのかよ!この世界小学校無いけど。




 チンピラ達を路地裏に転がして、当初の予定通り市場で買い物をする。

 パン粥の材料に林檎を買い、馴染みの店で夜営の時に使う鍋や木製の食器を購入してから小屋に戻る。


 小屋の前で準備を始めるとイスカやフィオは「え…グレイさんが料理するんですか?!」と、大層驚いていた。

 似合わないって自覚はあるが、こう見えて炊事洗濯掃除はいつもしてるぞ。 前世を思い出す前からずっとな…。


「あ…せめてお手伝いだけでもさせて下さい」


 そう言って抱いていたニナを下ろすとアリアメルが近寄ってくる。

 指を咥えて林檎を見詰めているラッツの頭を撫でて「もうちょっと待て」と言うと、素直に頷いた。


 完成したパン粥を鍋から買ってきた食器によそってると後ろから誰かに服を掴まれる。


「ん?」


 後ろを振り返ると、ニナが鼻水を垂らしながら俺の顔をじーっと見詰めてくる。


「……ほら、動くな」


 ニナの鼻水を拭いてから


「あっちで待ってろ、直ぐ持っていくから」


 そう言ったがニナはずっと俺の服を掴んだまま、尚も俺の顔を見詰めてくる。


 な…なんだ?

 顔を見ても怖がられないのは嬉しいが…あんまり見詰められるのは何か恥ずかしいんだけど…。



「…おとーしゃん?」



 ニナが俺の顔を見詰めたままそう喋った。


『いや、違うぞ。 俺はお前達の父親じゃない』


 そう言おうとしたのに、何故かこの子が悲しむかもしれないと思うと言葉がでなかった。


 ど…どうすればいいんだ?


「ほら、ニナ。 グレイさんが困ってるよ?」


 俺が困惑していると、ニナをアリアメルが抱き上げる。


 俺から離れる時にニナが此方に手を伸ばしてきたのを見て、思わずその手を取りそうになった。




 ………お、俺は一体何をしようと…?
















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