君の温かいご飯が食べたい
ひなみ
本文
今日も仕事を終えると帰り支度をして愛車に乗り込む。
夜勤明けは特にお腹が空くもので、ふらふらと足元が覚束なくなるほどだ。車の窓からは色とりどりの店の照明が眩しく光って見え、本来は真っ暗なはずの帰り道を
昨日は家系ラーメンをスープまで飲み干し、今日はファミレスのチキンドリアで軽く火傷をし、その舌をバニラアイスで冷やした。夜食は外食。それが僕の日常と言えるものだ。
帰宅すると物音を立てないように、そろりそろりと風呂場へと向かいシャワーを浴びる。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、隣の部屋の様子を確認。楽しい夢でも見ているのか、だらしなく少しにやけている。ゆっくりとドアを閉めて自室へ。
ペットボトルの水を半分くらい口にしたところで、机に何かが置かれているのに気付いた。
そこには一冊のノートがあった。どうにも市販品には思えないくらい豪華な
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【はじめに】
このノートを開いているということは、これをすぐに見つけられたのかな? まあどうせあなたのことだからさ、勝手にごめんねなんて言いながら、今これを読んでるんじゃない? どう、当たってる?
でね、このノートは何かというと。生活リズムが真逆で時間の合わない私達って、日常的に話すタイミングがないじゃない。できても挨拶くらいでさ。
でも会話するにもメールとかだと味気ないと思って。だったらいっそ手書きの、交換日記みたいにしたら面白そうじゃない? と思いついちゃったわけなの! どう、私のこと褒めてもいいよ?
中身はその日あったこととか、仕事のことでもいいし、とにかく伝えたいことを何でも書こう。
あ、でも仕事疲れで何も書けない時は空白にでもしておいて。あと何も浮かばない時も同上。
言っておきますが、あなたに拒否権は一切ありません。それじゃ、よろしくね!
ちなみに、このノートはオーダーメイド品です。お値段は何と……、
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現状を彼女なりに考えてくれているのだろう。文は人なりとは言うけれど、その言葉に間違いはなさそうだ。僕はふふっと小さく笑いながら、引き出しからシャープペンシルを取り出した。
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そういうことね。いきなり何かと思ったよ。まあ、拒否権はないみたいだし? ここは一つ乗ってみようかな。
仕事は相変わらずです。
あと今日はファミレスで舌を火傷しました。以上。
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火傷ってどうせドリアでも頼んだんでしょ。ちゃんとふーふーしなさい。
こっちはね、クソ上司のせいでうおおおおおおおんっ! ってなってるんだよ! ああ! 思い出すだけでイライラするう、ちくしょうめ!!
だから今、飲みながらこれを書き殴ってます。
あーでも、ここで愚痴れたのですっきりした。おやすみなさい!
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そういう手合いは音声データを取っておいて、後から
何か必要なことがあればすぐに言って。対処するから。
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いや、そこまでのアレじゃないからね。でもありがと。
でもやっぱり、顔合わせられないまま家に一人でいるって辛いんだなぁ。
この日記のお陰でそれを余計に感じるかも……。
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ね
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ダイイングメッセージかな?
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いつもありがとう。
これからもずっと一緒にいてください!!!!
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どしたの急に!?
もしかして酔ってますか。
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泥酔しながら書いたみたいです。反省。
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反省はしなくていいんじゃない?
じゃあ私も言うね。
ありがとう。
こんな私と一緒になってくれてありがとう! 大好きです!
ちなみに、酔ってはいません。
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ごめん。やっぱりこのままじゃいけないよね。
そろそろ決断しなくては。
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決断とは何だろう?
大事なことならちゃんと教えてねー?
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今の会社を辞めてきます。
君の温かいご飯が食べたい。
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私も、毎日一緒にご飯が食べたい。
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この交換日記は半年ほど続いた後、ある日を境に役目を終えた。
そして数年が経った、何気のない日のこと。
「ねえ。パパ、ママ、これなぁに?」
今年で五歳になる娘が何かを持ってきた。手にしたその表紙には【
「ああ、こんなところにあったんだ」
僕がそう声をあげると、
「なつかしいね?」
隣で同じように彼女がノートに触れる。
「これなになに? これなになに?」
「うーん、そうだなぁ……。ママ達を繋いでいたもの、かな?」
「?? よくわかんないよー?」
「もう少し大きくなったら、意味がわかるよー」
その会話を聞きながら、
少し
君の温かいご飯が食べたい ひなみ @hinami_yut
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