流星群に結ばれて

浅葱

流星群に結ばれて

「流星群、見に行かないか?」


 中学校の先輩たちに誘われた。先輩たちは四人。男女二人ずつだ。もちろん他の生徒も声をかけられた。


「流星群って、何時ぐらいに見られるもんなんですか?」

「んー……夜中だね」

「えええ……寒いじゃないですか。それに、さすがに親が許可してくれませんよ」

「親って何時ぐらいに寝るの? 防寒して、身一つでいいんだけどな」

「どこ行くんですか」

「団地のゴルフ場だよ。光届かないからくっきり見えるよ」


 それにはちょっとだけ興味が湧いた。先輩たちも団地住まいだ。だから場所はよく知っている。

 流星群が現れるのは12時頃から朝方4時頃までらしい。うん、真夜中だ。親がいつも通り寝てくれたらいいんだけど。


「うーん……行けるって保証はありませんけど」

「LINEは?」

「スマホ、夜9時でロックかかるんで」

「マジか」


 先輩方は天を仰いだ。


「いやー、布団入っても使ってたのバレちゃって」


 俺は頭を掻いた。あの時の母親の顔は般若みたいだった。二度と逆らってはいけないと思った。ってそうじゃなくてだな。今はその話じゃないだろ。


「じゃあ……12時半まではゴルフ場の外で待ってるから。それ以降は勝手に入ってる」

「勝手に入れるんですか?」

「ちょうどいい隙間があるんだよな」


 先輩は口元にしーっと人差し指を立てた。夜中こっそり出かけるとかわくわくする。

 うちの両親は共働きだからめったに夜更かししない。俺が夜中にこっそり下の階でTVを見ててもバレたことはなかった。(何故かスマホ使用はバレたけど)

 行ってみるか。

 当日、どきどきしながら親が寝るのを待った。風呂に入ったら湯冷めしそうだけど、夜中に出て行くことがバレてはいけない。しっかり温まって、髪は念入りにタオルドライした。普段からドライヤーとか使ってないから、いきなり使ったらなんかあるかもと思われるかもしれない。できるだけいつも通りに行動し、親が寝静まった12時頃こっそり家を出た。

 冬の夜の空気はさすがに寒い。腹巻もしたし、ダウンジャケットにマフラー姿で表へ出たが身震いした。カイロも二つぐらい持ってきた。でもなんつーか、肌に当たる空気が冷たいっていうより痛いっつーのかな。うまく言えないけど寒すぎて頭痛がしそうなかんじっていえばいいか。

 自転車に乗って団地の端っこにあるゴルフ場へ向かった。


「おおー、来たなー」


 小声で声をかけられて頷く。

 これで帰宅したら親が仁王立ちで待ってたりしたらやだなと思ったが、せっかくの流星群である。楽しもうと思った。

 流星群を見るなんて言ってるけど、俺たちは別に天文部とかだったりはしない。パソコン同好会だ。


「川野君、来てくれたんだねー」


 女の先輩が二人いる。一人は部長の彼女だけど、もう一人の先輩は俺によく声をかけてくれる。俺に気があるなんてうぬぼれてはいない。俺は中一で、先輩は中三だ。二年の差は厳しい。ま、俺は密かに先輩のこと好きだけどな。


「ここから入るんだよ~」


 といって示してくれた隙間は、けっこう細かった。金網をよじ登ってもいいが、一番上には鳥避けの針みたいなのがある。ここを通れたらその方がよかった。どうにか隙間を抜け、ゴルフ場の芝生につく。ここはあんまり広くはないけど、ゴルフの打ちっぱなしみたいなことはできるみたいだ。


「敷物持ってきたからここに寝転がって見るといいよ」


 大きなビニールシートの上にみんなで寝転がった。とても寒いんだけど、さっそく流れ星を見つけた。


「あ、流れ星」

「今日は流れ星がいっぱいだね~」


 女の先輩の顔が近い。ちょっとだけどきどきした。

 今ならどれかの流れ星には願いを言っても叶うんじゃないかって思うぐらい流れ星を見た。流れ星だけじゃなくて星々を見ているだけでも飽きない。文字通り満天の星空だった。

 そっか、流星群ってこういうのなのかと思っていたら。

 ボッ! と音がしたように、いきなり真っ白い火の玉みたいな流星が流れて行った。かなりでかかった。目の前が緑だ。


「うわっ!」

「なにあれ~?」

「すごーい!」


 みんな大興奮だ。


「すごいね!」


 先輩が無邪気に笑む。仰向けで、きらきらした目が見えた。流れ星もキレイだけど、先輩もキレイだななんて思ってしまった。

 そのまま耐えられなくなるまで星を見続け、都合三個は火の玉を見た。


「今日は誘っていただいてありがとうございました」

「楽しかった。また機会があったらこよーな」


 先輩方も楽しめたようだった。

 都合二時間ぐらいは見ていたんじゃないだろうか。あんな火の玉みたいな流れ星が見られるなんて全く思ってもみなかった。

 自転車をこいでうちに帰った。幸い親は起きてこなくて、俺はこっそり布団に潜り込んだ。

 すごかった。まだあのでっかい火の玉が目に焼き付いている。

 それに、親に内緒ですごいことをしたんだぞって思ったりもした。

 そんなあの夜の記憶は未だに色あせない。


「川野君、何考えてるの?」

「ああ、流星群を思い出してたんですよ」

「川野君ってばそればっかりね」


 彼女がふふっと笑った。

 あの夜の、みんなで見た星空が忘れられなかったのは俺だけではなかったらしい。先輩と同じ高校に入って、大学に進学して……今あの時の女の先輩は、俺の彼女です。


おしまい。


望遠鏡はかついで行かない(何

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

流星群に結ばれて 浅葱 @asagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ